つぶしていいのか三番瀬

三番瀬を守る署名ネットワーク 代表 田久保晴孝


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 三番瀬をつぶしてよいと思う人はいないはずである。しかし、三番瀬の干潟や浅瀬をつぶそうという動き(三番瀬再生事業など)が強まっている。
 すでに塩浜護岸の一部では、海へ30m張り出す護岸工事が始まっている。(平成17、18年度分2億6000万円の工事は終了)


1.三番瀬再生事業

(1)市川市塩浜護岸改修
 護岸沿いの海域は護岸が海側へ30m張り出すことによって、約3万6000uも海域が狭まることになる。護岸用の捨て石などで、マガキ、ウネナシトマヤガイ、マハゼ、ギンポの巣などが消滅してしまう。
 100mの工事(2006年度完成形20m)をみると、水に親しむには危険すぎるし、生態系に配慮した護岸とは思えない。美しさも、自然へのやさしさもない護岸となっている。また、「三番瀬再生基本計画」に書かれていうような、海と陸との自然な連続性も感じられない。
 今年度分の改修護岸はすでに終了したが、引き続きこの形で改修するのではなく、モニタリング調査の結果を評価し、次年度からの工事については、直立護岸や粗朶(そだ)護岸、陸側の自然再生を含めた検討を求めていきたい。

(2)人工干潟の造成
 とくに猫実川河口域には、5000u以上のカキ礁が存在し、アナジャコが多数生息する砂泥質の干潟(30ha)や浅瀬がある。三番瀬の中でも生物豊かな海域であり、この海域をつぶしての人工干潟化は中止すべきである。
葛西(東京都)、幕張(千葉市)、五日市(広島県)などの人工干潟では、豊かな生物群集がみられない。人間の便利さだけ考えての、豊かな海をつぶしての人工干潟化には反対します。

(3)漁場再生
 京葉港1期・市川1期、浦安1・2期埋め立てなど、約3000haもの埋め立てによって、アシ原、藻場、泥干潟などは失われた。ハマグリやイボキシャゴ(イボキサゴ)、タツノオトシゴなどがいなくなった。
 しかし、現在の三番瀬は、貝、ゴカイ、カニ、魚、水鳥のどれをとっても豊かである。とくに貝や稚魚が育つ場としてはすばらしい場所である。
 県が設置した「三番瀬漁場再生検討委員会」には漁民代表も加わっている。この委員会では、現在の三番瀬の漁場を悪くしているのは猫実川河口域の停滞域、と一方的に決めつけている。そして、この海域の海水の流れをよくするため、ということで人工干潟化を進めようとしている。また、ノリとアサリのみを特別に扱い、ほかの生き物は排除しているように思える。
 これに対し、私たちは生物豊かな猫実川河口域は保全すべきだと訴えている。
 21世紀のあるべき漁業としては、生物多様性を重視し、ラムサール条約の登録湿地にし、エコ漁業、エコツーリズム、地産・地消を求めてほしいと願っている。


2.ラムサール条約

 ラムサール条約締約国である日本は、ラムサール条約の湿地保全の戦略に学び、湿地の賢明な利用をはかりつつ、今ある豊かな湿地(三番瀬の猫実川河口域など)を保全していかなければならない。
 ラムサール条約の湿地再生の原則はこうである。
〈湿地再生の第一原則は、豊かな湿地は保全することである。人工干潟という自然破壊で海域をつぶしてはいけない。「ミチゲーション」(代償措置)ということで湿地をつぶすのであれば、それ以上に湿地を再生しなければならない。〉
 湿地(藻場やアシ原など)の再生のために三番瀬・猫実川河口域をつぶすことはラムサール条約の精神に反する行為である。
「三番瀬を守る署名ネットワーク」は、三番瀬をラムサール条約登録湿地に早期登録させるための署名を進めている。この署名や、ラムサールバスを走らせる会のとりくみにご協力をお願いしたい。


3.第二湾岸道路

 県などが猫実川河口域の人工干潟化をめざしているウラには、そこに第二東京湾岸道路(第二湾岸道路)を通すという目的がある。そんな道路のために猫実川河口域をつぶして人工干潟にすることは許されない。
 第二湾岸道路は、1994年に地域高規格道路の候補路線に指定され、国の「首都圏道路ネットワーク(3環状9放射道路)」の一部に組み込まれている。千葉県、船橋市、市川市などが加わっている「第二東京湾岸道路建設促進協議会」は、今年(2006年)も早期実現に向けての要望を国交省などにしている。千葉県も毎年、国交省に早期実現を要望している。
 この第二湾岸道路は不要である。理由を3点あげる。
  • 国交省の全国交通実態調査によれば、船橋市や市川市の湾岸地区の交通量は減少している。また、将来は、人口が確実に減少するし、車や物量も減少する。
  • 第二湾岸道路の建設費は約20kmで2兆円かかるといわれている。この巨大な建設費をだれが負担するのか。
  • 船橋市や市川市の湾岸道路付近の大気汚染は全国有数に悪い。そういう状況でさらに8車線の高速道路が建設されたら、汚染や騒音がもっとひどくなる。


4.猫実川河口域

 これまで述べてきたように、「自然再生」の名による開発の焦点は猫実川河口域の人工干潟化である。
 猫実川河口域は、カキ礁があり、アナジャコが多数生息するなど、三番瀬の中で最も生物相が豊かで水質浄化力が高い区域である。この海域について、市川市は広報紙などで繰り返し“ヘドロの海”と強調しているが、それは間違いである。
 たとえば、県が1996〜98年に実施した補足調査では、三番瀬の他の地区と比較しても、浄化力は高い区域と発表されている(この調査では、アナジャコやカキ礁の存在は確認されていなかった)。
 さらに、この海域は堆積傾向にあり、春から夏にかけての大潮の干潮時には泥干潟が30ha以上も干出する。したがって、あえてこの区域に砂を入れて人工干潟化にする必要はまったくない。
 ちなみに、市川市には、人が水(海水)に直接ふれられる場所として、
  • 江戸川放水路、
  • 市川市東浜(ふなばし三番瀬海浜公園の隣り)
 の2カ所があり、その延長は船橋市よりずっと長い。「市民が海にふれあえるように」というのなら、こうした場所を活用すべきである。
 猫実川河口域は、生物豊かな砂泥質の干潟・浅瀬である。こんな大切な湿地は、ラムサール条約(国際条約)の湿地再生の原則にもとづき保全すべきある。

(2006年11月)













市川塩浜護岸改修の工事前


捨石の均(なら)し


工事終了後






第二湾岸道の予定ルート








県は、「再生」という名で三番瀬埋め立て計画の復活をめざしている。
その目的は第二湾岸道路を猫実川河口域に通すことである。
「三番瀬再生」という名で人工干潟を造成する際に
沈埋(ちんまい)方式などで道路を埋め込む、というのが県の考えと言われている。
人工干潟の下に道路が隠れるので、
「三番瀬再生」と第二湾岸道は整合するというわけである。







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