ウソやごまかしが何カ所も
〜土砂投入を正当化するための解析〜
鈴木良雄
第20回三番瀬円卓会議(2003年12月25日)では、専門家会議から三番瀬自然環境総合解析の概要が報告された。この報告を聞いてアゼンとした。ウソやごまかしが多いのである。
端的にいえば、三番瀬への土砂投入を正当化するための解析結果といえる。土砂投入に都合の悪いことはあまり書かれていない。また、事実も平気でねじ曲げである。
なぜそういうことがいえるのか、とりあえず次の4点を指摘したい。
- 「ふなばし三番瀬海浜公園」前に投入された202万m3の土砂は、激しい潮の満ち干や波の作用で大部分が削られてしまった。しかし、総合解析はそれを隠し、砂が浸食によって次第に沖側に広がって広大な人工干潟が形成されたかのように記述している。
- 「人為的に砂を投入した所以外は三番瀬には干出域がほとんどなくなった」と書いているが、これは大ウソである。
- 猫実川河口域は1991年以降、堆積傾向にある。しかし、それを隠し、「全体に浸食傾向が進行している」としている。
- 猫実川河口域にアナジャコが無数に生息していることは現場にいけば一目瞭然なのに、「アナジャコの可能性のある」という記述にとどめている。
【1】ふなばし三番瀬海浜公園前の人工海浜造成に事実と違う記述
「総合解析」は「ふなばし三番瀬海浜公園」前の干潟についてこう記している。
「1981〜1982年に船橋市前面の約40.6haに202万m3が覆砂され、人工海浜・干潟が造られた。1986〜1991年は覆砂した地形が浸食されていないが、その後は浸食されつつ沖側に広がり、現在はほぼ安定したと考えられる」これを読むと、202万m3の砂が投入され、その砂が浸食によって次第に沖側に広がって現在の広大な干潟が形成されたと受けとれる。つまり、広大な人工干潟が形成されたということである。じっさいに専門家会議や円卓会議では、磯部雅彦委員(東京大学大学院教授、海洋工学)がそのような話を何回もしている。
これは、猫実川河口域の人工干潟化や土砂投入を正当化するための論理である。「ふなばし三番瀬海浜公園」前面で人工干潟が成功しているのだから、猫実川河口域でもうまくいくというのである。
しかし、これは事実と違う。
同公園前の干潟は、県が1970年代、もともとあった干潟を浚渫して船橋航路と市川航路を結ぶ「分岐水路」(横引き航路)として利用したところである。ところが、深い航路に立つ波の力は激しく、前面の砂を流して航路を埋めてしまうため、航路をくり返し浚渫しなければならなかった。また、1974年の台風で、埋め立て地側の垂直護岸がいたるところで倒壊した。自然の力にはかなわなかったのである。そのため、県はついに「分岐水路」を廃止し、ここを埋めもどしてしまった。埋め戻しには市川航路の浚渫土砂が使われた。
重要なのは、その際、もともとの干潟よりも高く盛り土し、50分の1の勾配でつくったのが、激しい潮の満ち干や波の作用で、大部分の土砂が削られてしまったことである。千葉県は大規模な人工海浜をつくろうとしたのだが、それは失敗したのである。この点については、1998年8月20日付けの朝日新聞がこう記している。
「かつて公園(船橋海浜公園)に面した遠浅の海を、沖合350メートルにわたって人工海浜とする計画が進められ、大量の土砂が運び込まれた。ところが、数年のうちに土砂は激しい潮の満ち干で削られ、いま残る砂浜はわずかしかない。自然の姿に戻ろうとする三番瀬の力強さの前に、人知はあっけなく敗れた」これが事実である。投入された202万m3の土砂の大部分は削られてしまった。激しい潮の満ち干ではぎ取られたのだ。護岸の前に砂浜があるが、残った土砂はこれくらいである。
この砂浜とその前面の潮干狩り場は、「分岐水路」が埋め戻された場所である。そして、その前面に生物が豊かに生息している広大な干潟が広がっているが、これはもともとあった天然の干潟である。投入された202万m3の砂が浸食によって次第に沖側に広がってできたものではない。その証拠に、潮干狩り場の前面干潟は、船橋航路防泥柵の内側の干潟(浅瀬となっている旧航路跡の前面干潟)と同じ高さになっている。ここの干潟は土砂がいっさい投入されていない。
繰り返すと、202万m3の土砂の大部分は激しい潮の満ち干や波の作用ではぎ取られたのである。浸食されつつ沖側に広がったというものではない。
以上の事実は、三番瀬においても、人間が思いどおりに人工干潟をつくることは不可能ということを示している。
さらに重要なのは、埋めもどしをした箇所の前面に天然の干潟が残っていたために底生生物が生息し、シギやチドリなどの水鳥が飛来したり潮干狩りも楽しめるようになったことである。といっても、この箇所に生息している生物は、前面の天然の干潟や浅瀬と比べると、ずっと少なくなっている。この点は、たとえば風呂田利夫・東邦大学教授も、「(天然の)三番瀬と比べると生物の種類数、生 息量は貧弱である」(『水情報』Vol.18、No.5、1998年)と指摘している。
【2】「砂を投入した所以外は三番瀬には干出域がほとんど
なくなった」はウソ
総合解析は、「砂を投入した所以外は三番瀬には干出域はほとんどなくなった」と述べている。
これもウソである。浅海域が多い三番瀬にも、干出域はたくさんある。
(1)「ふなばし三番瀬海浜公園」の前に広がる干潟
(2)「沖の大洲」とよばれる浦安市日の出前面の天然干潟
(3)市川塩浜1丁目地先の養貝場
(8.3ha。市川市行徳漁協が造成した人工干潟)
(4)大潮の時に広大な泥干潟が現れる猫実川河口域
などである。
このなかで、人間が砂を投入したところは、(1)の一部(つまり、「分岐水路」を埋め戻した箇所)と、(3)の養貝場だけである。その面積は、干出域全体のなかでは半分以下である。
つまり、「砂を投入した所以外は三番瀬には干出域はほとんどなくなった」というのは事実と違うのである。もし、(1)(2)(4)のほとんどが「砂を投入した所」というのなら、その事実をきちんと提示すべきである。
たとえば、「ふなばし三番瀬海浜公園」前の埋めもどし箇所の前面の干潟はもともとあった天然の干潟だ。その旧航路跡前面の干潟もそうである。船橋航路の防泥柵の内側に相当するこの干潟は、いままでいちども砂を投入した事実がない。これは誰も否定できない事実である。
この点については、長年にわたって船橋市で漁をつづけている大野一敏さん(円卓会議委員)が第18回円卓会議で次のように疑問をだした。
「『大部分が後に人工的に砂を投入した場所です』という記述があります。しかし、船橋側の防泥柵の内側については、もともともあそこは一番浅い海域で、かなり露出していた場所です。今も露出しています。あそこは、船橋航路に土砂がとられているくらいで、もっともっと浅いところでした。今も干出しますよね。あの辺が本当のもともとの……」(議事録より)大野委員が言うように、船橋航路の防泥柵の内側は「本当のもともとの(天然干潟)」である。三番瀬の現場をいちばんよく知っている大野委員がそう言うのである。しかし、大野委員の指摘を無視し、総合解析は「砂を投入した所以外は三番瀬には干出域はほとんどなくなった」と結論づけてしまった。
こんなウソを平気でまとめる専門家会議というのはいったいなんなのか。それでも、三番瀬円卓会議は住民参加ということで高く評価されるのだろうか。住民参加であっても、事実と違うことやウソを書くことは許されないはずである。
【3】近年は猫実川河口域が堆積傾向にあることを隠す
総合解析は猫実川河口域についてこう記している。
「1980年から2003年までの間に猫実川河口や市川前面にみられた広い干出域はほぼ消失し、全体に浸食傾向が進行している」しかし、1991年以降は、猫実川河口域は堆積傾向にある。「千葉の干潟を守る会」の竹川未喜男さんは、1991年に作成された「市川2期・京葉港2期地区深浅測量図」と最近の調査結果を比較し、1991年以降はこの海域は堆積傾向にあると結論づけている。
じつは、10月10日に開かれた第9回専門家会議に提出された「三番瀬自然環境総合解析」の報告資料では、近年は堆積傾向にあるということが書かれていた。
「平成14年(2002年)度には、平成3年(1991年)度に比べ、猫実川河口で若干浅くなっている」と。
しかし、12月25日に提出された報告では、このことが削除された。そこで、「近年は堆積傾向にあるということをきちんと書いてほしい」と、竹川さんが傍聴席から発言した。
【4】「アナジャコの可能性のある」とは何だ!
総合解析は、猫実川河口域の水生生物について、こう述べている。
「スナモグリの可能性のある噴火口型は市川市岸壁付近から猫実川河口付近にかけて多い傾向がみられ、アナジャコの可能性のある直径1〜2cmの生息孔も猫実川河口付近に多かった」「スナモグリの可能性のある」とか「アナジャコの可能性のある」とはいったいどういうことなのか。この海域は、大潮の時は広大な泥干潟が現れる。そこに足を踏み入れると無数のアナジャコの穴を見ることができる。泥を「コアサンプラー」で採取すると、アナジャコを簡単に捕まえることができる。泥をスコップで掘ると、ゴカイといっしょにアナジャコの赤ちゃんが何匹もでてくる。スナモグリもいる。
市民調査のメンバーは、こうした調査結果を写真入りで資料や報告書にまとめ、円卓会議の委員になんども配布した。また、アナジャコがたくさん生息していることを大浜清委員が発言した。
しかし、それにもかかわらず、円卓会議の委託調査(平成14年度生物調査)ではアナジャコが確認されなかったので、総合解析は「アナジャコの可能性のある」にとどめるというのである。この委託調査では、泥干潟を掘ったりしなかったそうである。だから、アナジャコは採取できなかったとのことである。
しかし、こんな姿勢でいいのだろうか。市民調査でアナジャコの無数生息が確認され、それが写真や実物などで提示されたら、専門家としてきちんと調べるべきではないのか。
それをしようとしない専門家会議や円卓会議を、私はきびしく批判したいと思う。猫実川河口域の自然の豊かさや浄化能力の高さなどを認めたくないという磯部雅彦委員らの姿勢がありありである。
(2004年1月)
船舶航行中の航路(埋め立て地先。写真の中央)は、
県が干潟(三番瀬)の一部を浚渫してつくった分岐水路である。
分岐水路はその後、市川航路の浚渫土砂で埋めもどされ、
「市民の浜辺」として利用されるようになった。
この浜辺は、前面(写真では右側)に天然の干潟が残っていたために、
底生生物が比較的多く生息するようになった。
分岐水路(航路)は1981年に市川航路の浚渫土砂で埋めもどされ、
「市民の浜辺」として利用されるようになった。
ここには砂をいっさい投入していない。
★関連ページ
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