知床に行き三番瀬問題を考える

〜自然保護と環境学習〜

鈴木良雄



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 この夏、知床の自然にふれながら、「自然保護とは」「環境学習とは何か」を考えました。


■知床では、観光や環境学習よりも生態系保護が優先

 観光コースの目玉のひとつとなっている知床五湖は、ヒグマがひんぱんに水飲みにやってきます。そのため、5つの湖のうち、第二湖から先、あるいは全部の湖が立ち入り禁止になることがあります。
 つまり、観光や環境学習よりも生物や生態系の保護が優先されているのです。ヒグマに襲われたら人間の命が危ないからといってヒグマが出没できなくなるようにしたり、殺したりすることはけっしてありません。
 これは、ほかの場所やほかの動物も同じです。観察や環境学習がやりやすいようにと、原生林を伐採して人工林に改変したり、原生林の中にだれでも自由に入れる道路をつくったりすることも許されないのです。そんなことをしたら、世界自然遺産の登録を抹消されてしまいます。


■三番瀬では、「環境学習」を優先すべきと海洋生物学者が主張

 「そんなことは当たり前だ」と思われる方もおられるでしょう。しかし、日本のほかの場所では、そんなバカなことが今も堂々と進められています。
 たとえば、東京湾の奥部に奇跡的に残った貴重な干潟・浅瀬「三番瀬」がそうです。
 三番瀬の市川側に広がる猫実(ねこざね)川河口域は、多種多様な生き物が生息する重要な浅瀬(浅海域)です。大潮の干潮時には、広大な泥干潟も現れます。この海域では、ドロクダムシ、ホトトギスガイ、ミズゴマツボ、ニホンドロソコエビなど、三番瀬の他の環境条件には存在しない底生生物が多く発見されています。アナジャコもたくさんいます。約5000平方メートルにおよぶカキ礁も存在し、100種類以上の生き物が生息しています。ヤマトオサガニ、ウネナシトマヤガイ、マメコブシガニなど、千葉県のレッドデータブックに掲載されている絶滅危ぐ種も、市民調査で6種類が確認されています。
 生物多様性の観点からみても、ここを保存することは重要です。また、この海域では浄化作用も活発に行われているなど、三番瀬全体の環境の中で重要な役割を果たしています。まさに、猫実川河口域は、東京湾漁業にとっても、大切な命のゆりかごとなっているのです。

 ところが、この海域に土砂を入れて人工干潟をつくるべきと主張している学者がいます。海洋生物学の風呂田利夫・東邦大学教授です。
 風呂田氏はこんなことを主張しています。
    〈船でいかなくては行けないとか、カキで足を切りやすいような場所(泥干潟やカキ礁など)は、環境研究や環境学習の場所としては適していない。だから、そこに土砂を入れて、人工干潟にすべきだ。そうすれば、安全に環境学習などができる〉〈注〉
 つまり、環境研究(学習)を安全におこなうために、人工干潟にすべきであると言っているのです。人工干潟にすれば、いま生息している多種多様な生き物は全滅します。しかし、風呂田教授は、市川市の広報紙『フォーラムアイ』(No.16)で、「今いる生物の犠牲は避けられません」と述べています。


■環境学習を名目にし、本物の自然を壊して
  疑似自然に置き換えようとするもの

 風呂田氏の主張は、「環境学習」や「環境研究」を名目にし、本物の自然を壊して疑似自然に置き換えようとするものです。知床でいえば、知床の自然学習や環境研究がやりやすくなるように、原生林を伐採して人工林に植え換えるべきとか、ヒグマに出くわしたら危ないのでヒグマの行動範囲を規制すべきだというのとおなじです。
 世界自然遺産に登録された知床では、こんなバカげたことは絶対に許されません。自然保護を今まで以上に強く推進できるようになるかどうか、ユネスコにきびしく監視されるからです。

 たとえば白神山地では、林野庁が白神山地の核心部内に教育用の自然観察林をつくろうとし、批判をあびたと聞いています。
 しかし、三番瀬などでは、海洋生物学者が堂々とそんなことを主張しているのです。人工干潟の造成は、猫実川河口域のように多種多様な生き物が生息している場所ではなく、すでに埋め立てられた場所などでおこなってほしいものです。

(2005年9月)









猫実川河口域は、大潮の干潮時に広大な泥干潟が現れる。








猫実川河口域のカキ礁は、面積が約5000平方メートル。大潮の干潮時に姿を現す。








生きたカキが上へ上へと積み重なり、塔状になっている。








泥干潟をスコップで掘ると、水道管のようなアナジャコの巣穴が見つかる。








アナジャコの赤ん坊。








イシガニの雄(右)と雌(左)








アカニシ(右)とアカニシの卵(右)








カキの死骸のかたまりを分解すると、カニなどさまざまな生き物がでてくる








カキの死骸には、チチブ(ダボハゼ)も入っていた。カキ礁が生き物の住み処(すみか)になっていることがわかる。








生きたカキ








知床五湖









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