三番瀬の人工干潟造成を中止
〜千葉県が発表〜
2016年10月、三番瀬の人工干潟造成中止を千葉県が正式に決定しました。これで、15年におよぶ人工干潟造成の攻防はいちおうのケリがつきました。
人工干潟造成は、三番瀬の猫実川(ねこざねがわ)河口域に第二東京湾岸道路を通すための前提となるものです。第二湾岸道路の建設もとりあえず食い止めることができました。
第二湾岸道を通すため人工干潟造成計画
経過はこうです。
県は三番瀬の2期埋め立て計画(740ha)を1993年に発表しました。これが実施されると三番瀬はほとんど消滅します。そこで、三番瀬保全団体は「これ以上埋め立てるな」という運動をはじめました。署名を30万集めるなど、埋め立て反対の世論を盛りあげました。
2001年春の県知事選では、三番瀬埋め立てが最大の争点になりました。選挙中に朝日、読売、毎日の3紙がおこなった県民世論調査では、いずれも「埋め立て反対」が過半数を占めました。これをみた堂本暁子候補は、選挙戦の途中で三番瀬埋め立て計画の白紙撤回を唯一の公約に掲げました。見事に当選です。
堂本知事はこの年の9月に三番瀬埋め立て計画を白紙撤回しました。しかし喜びもつかのまでした。堂本知事は自民党と取り引きしました。埋め立て計画は白紙撤回するが、第二東京湾岸道路は猫実川河口域(浦安寄りの三番瀬海域)に通す。そのためにこの海域で人工干潟を造成する──というものです。
堂本知事は、「三番瀬再生」をうたいながら人工干潟造成をめざしました。住民や市民団体、漁協などの合意を得るため、三番瀬円卓会議をたちあげました。丸2年におよぶ議論の結果、円卓会議は人工干潟造成をもりこんだ提言を採択しました。三番瀬保全団体の猛反対を押し切っての強行採択でした。強行採択に反対したのは、24人の委員のうち大浜清委員(当時千葉の干潟を守る会代表)だけです。環境派として名高い委員も土壇場で人工干潟造成に賛成しました。吉田正人委員(日本自然保護協会代表理事、筑波大学大学院教授、当時日本自然保護協会常務理事)、清野聡子委員(九州大学大学院准教授、当時東京大学大学院助手)、蓮尾純子委員(日本野鳥の会評議員)などです。
この提言をうけて、県は人工干潟造成の布石となる事業を進めました。地元の市川市は広報紙で人工干潟造成の必要性をあおりたてました。市は「人工干潟も都市部では貴重な自然」とするキャンペーン本も出版しました。
市川市自治会連合協議会の会長や漁協幹部も県の審議会などで「人工干潟を造成すべき」の大合唱をくりかえしました。県議会では自民党議員が猫実川河口域を「ヘドロの海」とよび、人工干潟造成と第二湾岸道路建設を主張しました。
日本の海洋生物研究の第一人者とされる風呂田利夫氏(東邦大学名誉教授、元日本ベントス学会会長)も人工干潟造成を後押しする主張をくりかえしました。風呂田氏は猫実川河口域のカキ礁を有害物とし、除去して人工砂浜(人工干潟)をつくるべきと主張しました。その根拠は、足を切ったりするのでカキは人間にとって危険な生物である、子どもたちが安全に海に入れるように砂を入れて人工砂浜にすべき、というものです。環境団体の「三番瀬フォーラムグループ」も人工干潟造成の必要性を主張しました。
運動の成果
そういうきびしい状況のなかで、三番瀬保全団体はさまざまな運動をくりひろげました。行政交渉もくりかえしました。2009年4月からこれまでおこなった行政交渉は50回におよびます。三番瀬市民調査も大きな役割を果たしました。県議会の野党にも支援をいただきました。
そしてついに今年(2016年)2月、県は県議会で人工干潟造成断念を表明しました。また、10月29日に開かれた三番瀬ミーティングで中止決定を発表しました。
人工干潟と第二湾岸道路建設は一体です。第二湾岸道路建設も食い止めることになりました。この道路は、浦安市、船橋市、習志野市、千葉市の埋め立て地には8車線の道路用地が確保されています。三番瀬で中ぶらりんになっているため、道路を建設することができません。三大湾(東京湾、伊勢湾、大阪湾)のなかで埋め立て地や干潟を通る高速道路の建設を止めているのはここだけです。
とはいえ、県はいまも第二湾岸道路構想を掲げています。人工干潟造成計画が復活するかもしれません。そのため、私たちは第二湾岸道路構想の中止を求めて行政交渉をつづけています。三番瀬保全の法的措置も求めています。そのひとつがラムサール条約登録です。三番瀬を後世に引き継ぐため、三番瀬保全団体は今後もねばりづよく運動をつづけていくことにしています。
(2016年10月)
中止が決まった人工干潟造成計画と第二湾岸道路の予想ルート
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