Q&A
ここが知りたい三番瀬
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Q1 三番瀬はどんなところ?
Q2 三番瀬にはどんな生き物がいるの?
Q3 三番瀬はどうして残ったの?
Q4 三番瀬は埋め立て中止になったはずなのに、なぜ問題になっている?
Q5 三番瀬再生会議は何を議論しているの?
Q6 三番瀬円卓会議の提言はどう生かされているの?
Q7 市川市が人工干潟化をめざしているのはなぜ?
Q8 市川塩浜地区の再開発計画と三番瀬の関係は?
Q9 市川市は、かつての自然を取り戻すため人工干潟にしたいと言っているが?
Q10 市川市民の中には「市民が海に親しめるように」の声もあるようだが?
Q11 焦点になっている猫実川河口域はどんな海域?
Q12 猫実川河口域を「ヘドロの海」と呼ぶ人もいる?
Q13 カキ礁を有害物と言う人もいるが?
Q14 三番瀬の人工干潟化はなにが問題?
Q15 人工干潟をつくる場合、砂はどこから持ってくる?
Q16 ふなばし三番瀬海浜公園前の潮干狩り場を「人工干潟の成功例」と言う人がいるが?
Q17 千葉県は三番瀬をどうしようとしているの?
Q18 三番瀬再生事業はどこまで進んでいる?
Q19 「流れづくり」を主張する人たちもいるが?
Q20 ラムサール条約に登録されないのはなぜ?
Q21 第二湾岸道路の計画はいまでも残っているの?
Q22 第二湾岸道路はつくれないのでは、という声もあるが?
Q23 「三番瀬は環境が悪化している」と言う人がいるが?
Q24 環境省のガンカモ類調査結果ではスズガモが減少しているようだが?
Q25 ミヤコドリが増えていると聞くが?
Q26 三番瀬の漁業はどうなっている?
Q27 転業準備資金問題というのは何?
Q28 三番瀬の保全策で必要なことは?
Q1 三番瀬はどんなところ?
三番瀬(さんばんぜ)は千葉県の船橋、市川両市の地先に広がる約1800haの干潟と浅瀬です。
三番瀬は、日々繰り返される干満の営みによって酸素が直に供給され、ものすごい量の生物を育てています。また、たくさんの稚魚が育つため、“東京湾のゆりかご”ともいわれています。
ゴカイやカニ、貝、魚、水草などをエサにする水鳥たちは、干潟や浅瀬がないと生きていけません。日本は、サギ、カモ、カモメのほか、シベリア、アラスカからオーストラリア、ニュージーランドまで旅行するシギ、チドリの中継地になっています。
そのなかで、三番瀬は、日本有数のスズガモ、シギ、チドリの飛来地として、国際的にも重要な渡り鳥の中継地となっています。とくに、三番瀬は日本一のスズガモの生息地となっており、冬には数万羽が確認されています。
三番瀬はまた、ノリ、アサリ、カレイなどの好漁場となっており、多くの魚が稚魚のあいだ、干潟や浅瀬で過ごしています。さらに、県の補足調査で13万人分の下水処理能力を持つことが明らかにされたように、東京湾の浄化にも大きな役割を果たしています。
一方、ふなばし三番瀬海浜公園前の三番瀬は、5月の休日ともなると、潮干狩り客でごった返すほどにぎわいます。三番瀬は、市民のレクリェーションの場として、あるいは市民と海との触れ合いの場としても、たいへんな役割をはたしているのです。
つまり、東京湾沿岸で90%の干潟・浅瀬が失われたなか、三番瀬は、首都圏全体にとってきわめて大切な自然であり、貴重な“都会のオアシス”あるいは“命をはぐくむ海のゆりかご”となっているのです。
出所:三番瀬再生計画検討会議『三番瀬再生計画案』
Q2 三番瀬にはどんな生き物がいるの?
千葉県が1996年から3年をかけて実施した「補足調査」によれば、三番瀬では鳥類89種、動植物プランクトン302種、ゴカイなど底生生物155種、魚類101種、合計647種の生物が確認されています。また、1992年から2005年までの間で、180種の野鳥が観察されています。
東京湾の干潟が9割以上も埋め立てられた中で、三番瀬は干潟を主な生息地とする水鳥にとって貴重な生息場所になっています。また、スズガモ、アジサシ、コアジサシ、およびシギ・チドリ類の日本有数の飛来地になっています。冬期には6〜9万羽のスズガモが三番瀬や周辺海域で生活しています。
貝類では、アサリ、シオフキガイ、アカニシ、アラムシロガイ、ツメタガイ、ムラサキイガイ、マガキなど。カニ類は、マメコブシガニ、オサガニ、ユビナガホンヤドカリ、シロスジフジツボ、イシガニ、チチュウカイミドリガニ、ケフサイソガニなど。魚類は、マハゼ、サッパ、ボラ、イシガレイ、マコガレイ、スズキ、アナゴなど。その他の動物は、ゴカイ、タマシキゴカイ、ミズヒキゴカイ、クロガネイソギンチャク、ヒトデ、ミズクラゲ、アカクラゲなど。海藻や海浜植物は、オゴノリ、アナアオサ、ハネモ、ヒルガオ、ハマニンニクなどが生息しています。
ダイサギ
マメコブシガニ
アナゴ
アカニシ
カタクチイワシ
アメフラシ
トサカギンポ
Q3 三番瀬はどうして残ったの?
かつては東京湾に多くの干潟が存在していましたが、1950年代後半から80年代にかけて2万4000haが埋め立てられてしまいました。これは、東京湾の2割、干潟の9割以上に相当します。
三番瀬も、80年代半ばまでに半分以上が埋め立てられてしまいました。しかし、1993年に策定された市川2期・京葉港2期埋め立て計画は、埋め立て反対運動や30万署名、そして「これ以上埋め立てないで」という県民世論の高まりなどにより、2001年9月に白紙撤回されました。
三番瀬の埋め立てが終わった1985年(昭和60年)以降は、三番瀬の地形は安定し、環境
も悪化していない。(図は三番瀬再生計画検討会議事務局発行『三番瀬の変遷』より)
Q4 三番瀬は埋め立て中止になったはずなのに、なぜ問題になっている?
2001年9月に白紙撤回された101ha埋め立て計画の主な目的は、第二湾岸道路(第二東京湾岸道路)を三番瀬に通すことでした。そのために猫実川河口域(三番瀬の市川側海域)などを埋め立てるというものでした。
堂本前知事は、白紙撤回のあとも、第二湾岸道路について「必要であり、建設する」「三番瀬再生計画と調和をとる」と言い続けました。第二湾岸道路の構想は依然として残っており、用地確保が三番瀬で中ぶらりんになっています。そのために県は、「三番瀬再生」という名で猫実川河口域を人工干潟にし、その下に沈埋(ちんまい)方式で道路を通そうとしているのです。
一方、市川市は、猫実川河口域に面する塩浜地区の再開発計画を進めており、再開発とからめてこの海域の人工海浜(人工ビーチ)化をめざしています。
このように、埋め立て計画の白紙撤回後も、猫実川河口域を人工干潟(人工海浜)にする動きが続いています。
Q5 三番瀬再生会議は何を議論しているの?
三番瀬再生計画検討会議(通称:三番瀬円卓会議)は、2002年1月に堂本前知事が発足させ、2年間つづきました。その目的は、2001年9月に三番瀬埋め立て計画をいったん白紙撤回したあと、住民参加により新たな三番瀬計画を策定するというものでした。
円卓会議は住民参加と情報公開が売り物でした。しかし、24人の委員のうち埋め立て反対のメンバーはほんのわずかです。一方、埋め立てを推進したり、猫実川河口域を人工干潟にすべきと主張する団体からは多数が委員に選ばれました。したがって、最初から最後まで、猫実川河口域の人工干潟化(=人工改変)が議論の中心となりました。
自然保護団体などが強く反対したため、人工干潟化は合意されませんでした。しかし最終段階において、自然保護団体や環境保護団体委員の反対を押し切り、猫実川河口域に面する市川塩浜2丁目地先に砂護岸(石積み護岸+人工砂浜)を建設することが提言に盛り込まれました。これは、この海域を人工干潟にするための布石となるものです。
2004年1月に円卓会議が解散したあと、同年12月、その後継組織である三番瀬再生会議が発足しました。再生会議は、県の三番瀬再生計画や再生事業の内容を審議する住民参加組織です。
円卓会議と再生会議の最大の問題点は、現地を見ないで議論していることです。焦点となっている猫実川河口域の現地視察は1回もおこなわれていません。現地に踏みいれた委員はほんのわずかです。現地を見ないで、猫実川河口域について「ヘドロの海」とか「環境が悪化している」などと発言する委員が何人もいるのです。また、三番瀬や猫実川河口域の自然環境や評価について、まともな議論は1回もされていません。評価を棚上げにしたまま、「三番瀬の自然環境は単調化している」と決めつけ、「干潟的環境の形成」(人工干潟造成)を三番瀬再生事業の柱にしているのです。
Q6 三番瀬円卓会議の提言はどう生かされているの?
三番瀬円卓会議が2004年1月にまとめた「三番瀬再生計画案」では、さまざまな事項が提言に盛り込まれました。こんな事項です。
- 三番瀬保全再生条例の制定
- ラムサール条約への登録促進
- 行徳湿地と三番瀬との連絡水路の開渠化
- 猫実川後背地域の湿地・干潟化
- 市川市塩浜2丁目の現護岸の一部撤去とその陸側区域(市有地)の湿地化
- 浦安市日の出地区の埋め立て地の湿地・干潟化
- 江戸川から小河川や水路を通じた三番瀬への淡水導入
- 市川塩浜2丁目の護岸改修前面における干出域の形成(人工干潟造成)
県は、これらのうち三番瀬の保全に役立つ事項(@〜F)はすべて、ホゴにするか具体化をサボっています。
その一方で、Gの干出域の形成、つまり猫実川河口域に面する塩浜2丁目地先で石積み護岸をつくり、その前面に土砂を入れて人工干潟をつくることだけはシャニムニおし進めています。「三番瀬再生」とか「干潟的環境の形成」という名で三番瀬の貴重な干潟や浅瀬をつぶし、人工干潟を造ろうとしているのです。
海をつぶして建設中の石積み護岸(市川市塩浜2丁目地先)
Q7 市川市が人工干潟化をめざしているのはなぜ?
市川市は、猫実川河口域に面する塩浜地区の再開発計画を進めています。いまは工業専用地域などとなっている市川塩浜2丁目を、マンションやホテル、レジャー施設、商業施設などが林立する街に変貌させたいというのが願望です。大型ホテルの誘致も力を入れています。
そのためには、そこに面する猫実川河口域(三番瀬の一部)を人工海浜にし、「海の公園」(横浜市)や「葛西臨海公園」のようなものにしたい。そうすれば、人工ビーチを擁した街ということで採算性がとれる。土地も、マンション業者やホテル業者などに高く売れる──というわけです。市は「人工干潟」と呼んでいますが、内容は人工ビーチ(人工海浜)です。
さらに、そのすぐそばにある行徳鳥獣保護区(行徳近郊緑地)を新宿御苑のようなものにつくりかえることも主張しています。そうすれば、行徳地区に大勢の人がやってくるようになり、産業界が潤って地域活性化につながる、というわけです。(市川市長が2009年5月28日に知事に提出した要望書には、行徳鳥獣保護区の県から市への移管も盛り込まれています)
Q8 市川塩浜地区再開発計画と三番瀬の関係は?
■猫実川河口域の人工干潟化は「必要不可欠」
市川市の幹部は2009年2月市議会において、猫実川河口域の人工干潟化は市川塩浜地区のまちづくり(再開発)にとって「必要不可欠」と述べています。
■コンセプトは「Love is money」
塩浜地区まちづくりのコンセプト(基調)は「Love is money」です。「採算性のあるまちづくり」とのことですが、その本心は、直訳どおり「カネが大好き」あるいは「儲けが第一」です。
2003年7月25日開催の第10回「市川市行徳臨海部まちづくり懇談会」で、市川市塩浜協議会まちづくり委員会の代表委員はこう述べています。
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《私の希望としては、(猫実川河口域に砂を入れて)せめて100メートル先ぐらいまで、できれば300メートル先ぐらいまで歩けるようにしたほうがいいのではないかと考えている。市民が親しめる海辺については、船を使わなくても子供たちを連れて海の見学会ができるような感じがよいのではないか。
それから、野鳥の楽園(行徳近郊緑地。行徳鳥獣保護区)は、今は人間が入れない状態になっている。周辺にたくさんの人間が住んでいる場所なので、新宿御苑のような、ああいうイメージのようなものにしてもいいのではないか。もっと高い樹を植えて、もっと違う鳥が来てくれるというイメージがあってもいいのではないか。
「市川塩浜2丁目まちづくり方針」の基本理念に「愛」と書いてあるが、私はこれは Love is money と呼んでいる。企業側レベルでは当然お金がかかるので、採算性のあるまちづくりが必要だ。皆さんが親しめるというものがある。私のコンセプトは Love is money ということで、よろしくお願いしたい。》(議事録より)
Q9 市川市は、かつての自然を取り戻すため
人工干潟にしたいと言っているが?
南行徳前面のかつての三番瀬は新浜(しんはま)と呼ばれていました。泥干潟が広がっていて、人の出入りは少なく、野鳥の楽園でした。市民は、そこでは潮干狩りや海水浴はしていませんでした。
行徳野鳥観察舎友の会発行『よみがえれ新浜』(1986年発行)には、かつての新浜についてこんな証言が載っています。
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「20年前(1966年頃)の新浜は文字通り野鳥の楽園であった」「足しげく通った昭和30年頃の新浜は今とは全く違った形の野鳥のメッカだった。記憶にあるものといえば、堤防と養魚場、それに宮内庁のご猟場くらいなもので、人影も多くないところだった」
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「市川港ができる以前、江戸川放水路の河口域は、もう泥干潟ですよ。長靴がほとんどもぐるような泥でした。だけど、色はこういう色でした。酸素のある泥でした。川から流れてくる。それはまさに泥干潟でした」(議事録より)
Q10 市川市民の中には「市民が海に親しめるように」の声もあるようだが?
三番瀬円卓会議がまとめた「三番瀬再生計画案」は、猫実川河口域を保全ゾーンと位置づける一方で、市民が海に親しめるよう、市川塩浜2丁目の市有地前面護岸の撤去と市有地の湿地化を提言しています。これを実現すれば、現存の干潟・浅瀬をつぶすことなく、市民が海に親しめるようになります。
また、江戸川放水路は東京湾の入り江(海の一部)となっており、干潟にたくさんの生き物がいます。現に、市川市自然博物館はそこで散策会を実施していて、「博物館だより」には、放水路の干潟に海の生き物がたくさん生息していることや、散策会に参加した大人や子どもが感動したという報告がされています。ここを市民が親しめる海として積極的に活用すべきです。
さらに、行徳漁協が造成した人工干潟(養貝場)を潮干狩り場として復活したり、環境学習の場とすることも検討してほしいと思います。
Q11 焦点になっている猫実川河口域はどんな海域?
猫実川(ねこざねがわ)河口域は、いまも水質浄化能力がたいへん高く、多種多様な生き物が生息する重要な浅瀬です。稚魚のエサとなる底生生物なども豊富で、三番瀬の中で最も生物相が豊かな海域です。大潮の干潮時には広大な泥質干潟が現れます。
県の生物調査では、動物195種、植物15種が確認されています。そのなかには、県レッドデータブックに掲載されている絶滅危惧種も11種が含まれています。「三番瀬市民調査の会」が2003年から続けている市民調査でも、動物132種、植物16種を確認しています。
まさに、ここは東京湾にとって“いのちのゆりかご”となっているのです。また、砂質を基調とする三番瀬の中に泥質域やカキ礁があるという、この海域の底質環境の多様性があればこそ、三番瀬の生物多様性が高められているのです。
このような浅海域に土砂を投入して人工干潟を造成することは、埋め立てと同様に三番瀬の干潟・浅瀬の生態系を大きく改変することであり、多様な環境と生物、漁業などが微妙なバランスを保ちながら関係しあい成り立っている三番瀬全域の生態系に重大な影響をおよぼします。
この点は、たとえば大野一敏・船橋市漁協組合長も、「海にいろいろな生き物がいないと漁業は成り立たない。あそこが埋まったら、ゲームオーバーだ」(『サンデー毎日』2005年7月24日号)と述べています。
市川市の「人工干潟化」構想などは、ラムサール条約の「湿地復元の原則とガイドライン」が明記している「現存する湿地の保全維持の優先」に反するものです。また、生物多様性基本法の趣旨や、生物多様性保全を課せられた地方自治体の責務にも真っ向から反するものです。
猫実川河口域は、潮が引くと広大な泥干潟が現れる。
アナジャコの穴。猫実川河口域にはアナジャコも無数に生息している。
アナジャコ
Q12 猫実川河口域を「ヘドロの海」と呼ぶ人もいるが?
それは真っ赤なウソです。猫実川河口域を「ヘドロの海」とか「死んだ海」などと言う人は、調査をしないでそんなことを言っています。
■調査結果は、酸素が豊富で、生き物が生息しやすい環境であることを示している
県の「補足調査」による酸化還元電位測定結果では、猫実川河口域は、一部の地点がマイナスの値を示しているものの、大部分の地点はプラスの値です。大部分がプラスということは、猫実川河口域は全体的に酸素が豊富で、生き物が生息しやすい環境であることを示しています。
また、「補足調査」による強熱減量の測定結果は2.1〜7.4%です。強熱減量は底泥を強熱した際の減少量であり、値が大きいほど有機物の量が多いことを示します。通常の底質は10〜13%以下であり、これを超えると「ヘドロ化している」といわれています。
酸化還元電位と強熱減量の測定結果は、猫実川河口域が「ヘドロの海」でないということを実証しています。
■下水処理水放流先の変更後は改善傾向にある
以上の測定結果は、「三番瀬市民調査の会」が2003年からつづけている市民調査においても基本的に変わりありません。さらに、千葉県環境研究センターの研究者や東京大学の大学院生らがおこなった2008年の猫実川河口域の底質環境調査でも、強熱減量は2.3〜6.6%、酸化還元電位は、2008年の7月が全地点(8地点)、8月が5地点でプラスの値となっています。この調査結果のまとめでは、「この海域の底質環境は、(1991年の下水処理水)放流先変更後は速やかに改善されてきたと評価された」と記されています。
Q13 カキ礁を有害物と言う人もいるが?
猫実川河口域には約5000平方メートルの天然カキ礁も存在します。カキ礁は、水質浄化機能が高いだけではなく、魚礁としての機能も高く、海外においてはその価値が高く評価されています。
■米国チェサピーク湾では、カキ礁崩壊で生態系と漁業に悪影響
2007年4月8日に市川市内で開かれた「日米カキ礁シンポジウム」では、米国でカキ礁を研究している学者も3人講演し、こんなことを述べました。
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「チェサピーク湾などで栄えていたカキ礁は乱獲で崩壊してしまった。そのため、湾の生態系や漁業が大きな影響を受けている。私たちは、在来のカキ礁の復元を試みているが、復元は容易なことでない。三番瀬には在来の天然カキ礁が存在する。これはたいへん幸せなことであり、ぜひ大事にしてほしい」
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《カキは層を成して大量に存在することから、この巨大な湾の海水は1週間で浄化され、たぐい稀な透明度を保っている。というのは、1個のカキで1日約250リットルの水が浄化されるからだ。(中略)カキの漁獲(乱獲)により、かつて非常に生産性の高かった生態系の機能は完璧に変化した。チェサピーク湾の水が浄化されることもなくなった》
■有明海では、漁場環境改善策としてカキ礁に注目
有明海では、漁場環境改善に役立つとしてカキ礁の調査や試験採苗がとりくまれています。
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《独立行政法人水産総合研究センター西海区水産研究所(長崎市)が、有明海で少なくなったカキ礁を鹿島市沖で調べている。有明海のカキ礁研究はこれまでなく、実態把握のため、2008年度から分布調査や定点調査に着手。水質浄化能力があるカキが増えれば、漁場環境の改善にもつながる。養殖振興に向けた試験採苗にも取り組み、カキ礁に設置した採苗器には稚貝がぎっしり付着した》(『佐賀新聞』2009年6月25日)
海しか目にはいらない人たちは、カキ礁や泥干潟の豊かさや大切な役割に気づきません。だから、平気でじゃまな存在と決めつけ、覆砂して人工干潟や人工ビーチに造りかえようとしているのです。
猫実川河口域には、約5000平方メートルの天然のカキ礁も存在する。
Q14 三番瀬の人工干潟化はなにが問題?
人工干潟は今ある干潟や浅瀬にとって代わるものではなく、すでに浅瀬や干潟が消失されたところを復元させるためのものというのが国際的な常識となっています。
ラムサール条約の「湿地復元の原則とガイドライン」は、現存する湿地(干潟や浅瀬など)の保全維持を優先すべきとしています。それは、現存する湿地の機能を上回るものは人工的にはつくれないという世界の実例から導き出されたものです。
環境省も、藤前干潟(名古屋市)の埋め立て中止を打ちだした中間とりまとめで、人工干潟についてこう指摘しています。
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「一時的に底生動物が豊富になったように見えたり、一過的な底質の変化により特定の種が短期的に大量発生したりすることが過去の例においても見られるが、このような現象も一時的なものであり、いずれ底質環境が定まってくるに従い元の生態系以下の貧相な生態系となっている」
猫実川河口域を人工干潟にすべきと主張している人たちは、「埋め立て前の環境にもどすため」と言っています。それも、埋め立て地はそのままにしてです。
人工干潟をつくれば昔の環境にもどせるなどというのはペテンです。こんなことが本当にできると考えていたら、正気の沙汰ではありません。そこにあるのは、“人間の思いどおりに自然をコントロールできる”という驕(おご)りです。
また、自然に対する認識が薄っぺらです。自然環境や生態系についてほんの少しでも知識があれば、人工干潟化がいま生息する生き物を生き埋めにし、三番瀬の生態系を攪乱(かくらん)することはすぐにわかるはずです。
いのち湧く三番瀬をこれ以上つぶしてはいけません。人工干潟はあくまでも疑似自然です。すでに埋め立てられた場所でそういう干潟をつくるのはたいへん意味があります。しかし、多種多様な生き物が生息し、浄化能力が非常に高い浅瀬でそんな疑似自然をつくるのはとんでもない自然破壊です。
Q15 人工干潟をつくる場合、砂はどこから持ってくるの?
浅海域で人工干潟をつくる場合、土砂の確保も大きな問題になります。
たとえば、猫実川河口域の人工干潟化の必要性を叫んでいる市川市の幹部は、「干潟を再生するための土砂は、航路の浚渫(しゅんせつ)土などを活用することなどによって効率的に行えるというふうに考えております」と、2008年6月市議会で答弁しています。
しかし、市川航路の浚渫土ではまったく不足します。たとえば、千葉県が「三番瀬再生」のモデルとしている三河湾では、航路浚渫土だけでは不足し、人工干潟造成に必要な砂の入手が困難となっています。そのため、鉄鋼スラグを使用した干潟造成を実験中です。ところが、鉄鋼スラグは、全国各地で環境汚染をひきおこしています。一方、沖縄の泡瀬干潟では、埋め立てに残土も使われています。
県は2009年6月、塩浜1丁目の隅角部(2丁目寄り)で砂付け実験をはじめました。その砂は君津の山砂です。南房総の山をさらにズタズタに削り、三番瀬の生き物を埋め殺しにするつもりなのでしょうか。
このように、人工干潟造成は、鉄鋼スラグや残土の格好の捨て場とされたり、南房総の自然が破壊される可能性もあるのです。
Q16 ふなばし三番瀬海浜公園前の潮干狩り場を
「人工干潟の成功例」と言う人がいるが?
猫実川河口域の人工干潟化を叫ぶ人たちがそういう宣伝をしていますが、これはとんでもないことです。
3点を指摘します。
第1に、県による人工海浜計画は失敗しました。海浜公園前の砂浜は、県が1970年代、もともとあった干潟を浚渫(しゅんせつ)して船橋航路と市川航路を結ぶ「分岐水路」(横引き航路)として利用したところです。ところが、深い航路に立つ波の力が激しく、前面の天然干潟の砂を流して航路を埋めてしまうため、航路をくり返し浚渫しなければなりませんでした。また、1974年の台風で、埋め立て地側の垂直護岸がいたるところで倒壊しました。自然の力にはかなわなかったのです。そのため、県はついに「分岐水路」を廃止し、1979年から3年をかけてここを埋めもどしました。
重要なのは、その際、もともとの干潟よりも高く盛り土し、50分の1の勾配でつくったのが、波の作用で勾配が120分の1になるまでに削られてしまったことです。
つまり、県による人工海浜計画は失敗し、ただの埋めもどしになってしまったのです。このことは、三番瀬においても、人間が思いどおりに人工干潟をつくることは不可能ということを示しています。
第2は、埋めもどし部分の前面に天然の干潟が残っていたために、埋めもどした箇所にも底生生物が生息し、シギやチドリなどの水鳥が飛来したり潮干狩りも楽しめるようになったことです。
第3は、この箇所に生息している生物は、前面の天然の干潟や浅瀬と比べると、ずっと少なくなっています。たとえば風呂田利夫・東邦大学教授も、「(天然の)三番瀬と比べると生物の種類数、生息量は貧弱である」(『水情報』Vol.18、No.5、1998年)と指摘しています。また、潮干狩りに供されているアサリは、ここで生息したものではなく、他から運んできてまいているものです。さらに、砂浜となっている部分には、底生生物がまったく生息していません。
Q17 千葉県は三番瀬をどうしようとしているの?
県がめざしているのは、三番瀬で中ぶらりんとなっている第二湾岸道路を猫実川河口域に通すことです。しかし、三番瀬海域を高架で通すことは環境省が反対しました。そこで、「三番瀬再生」という名目で人工干潟をつくり、その下に沈埋方式(トンネル工法。いくつかのコンクリートボックスを海上から沈め、つなぎあわせて埋める)でこの道路を通そうとしているのです。
要するに、県の本当のネライは人工干潟(人工海浜)そのものではないということです。県は、人工干潟や人工海浜の維持管理がむずかしいことは「幕張の浜」で十分認識しています。人工海浜「幕張の浜」は、砂補給が毎年必要で、その維持管理費が莫大であることから、とうとう砂補給をやめてしまいました。現地は、砂が浸食され、大きな段差ができています。
そんな「三番瀬再生」は御免こうむりたいものです。
Q18 三番瀬再生事業はどこまで進んでいるの?
三番瀬再生事業の主な目的は、「再生」とか「干潟的環境の形成」などというマヤカシ言葉を用いて猫実川河口域を人工干潟にすることです。この事業の最大の問題点は、自然は人間の思いどおりにつくれないという基本的理念を見失っていることです。
現在は、人工干潟化をにらんで、市川塩浜2丁目地先の海域をつぶして石積み護岸を建設中です。
そして、石積み護岸の前に砂を入れるため、塩浜1丁目護岸の隅角部(2丁目寄り)で「砂付け実験」もおこなわれています。
砂付け実験の砂は君津の山砂が使われている
Q19 「流れづくり」を主張する人たちもいるが?
この主張は、潮の流れをよくするため、猫実川河口域を覆砂して水際線をゆるやかにすべきというものです。
これは科学的根拠がなく、猫実川河口域の人工干潟化をもっともらしく思わせるためのこじつけです。
干潟の成立に不可欠な自然環境は、潮流でなく潮汐(潮の満ち引き)です。「流れづくり」を唱える人たちは、このことがわかっていません。猫実川河口域も、潮の満ち引きによって海水面の昇降が日々くりかえされ、海水交換が活発に行われています。大潮の干潮時には広大な泥干潟が現れます。この海域には、ドロクダムシ、ミズゴマツボ、ニホンドロソコエビなど、三番瀬の他の環境条件には存在しない底生生物が多く発見されています。アナジャコも無数に生息しています。また、浄化作用も活発に行われているなど、三番瀬全体の環境の中で重要な役割を果たしています。そうした大切な浅瀬を覆砂して人工干潟(=疑似自然)をつくるというのは、時代錯誤の発想といっても過言ではありません。
ちなみに、大きく突き出た浦安市の埋め立て地をそのままにして猫実川河口域を覆砂しても、潮の流れは速くなりません。
Q20 ラムサール条約に登録されないのはなぜ?
県はこれまで、登録手続きが進まない理由として、「漁業者の反対」や「転業準備資金問題の未解決」をあげていました。しかし2008年3月、船橋市漁協が総会でラムサール登録に賛成する議案を採択しました。また、転業準備資金問題も同年11月に解決しました。
したがって、障害はなくなったはずです。ところが県は、いまだに「利害関係者の同意を得ることが必要」を言いつづけています。
環境省は、次回の第11回ラムサール条約締約国会議(2012年予定)までに6カ所以上を新規登録するとし、その有力候補地に三番瀬もあげています。しかし、県(自然保護課長)は、2009年6月定例県議会の予算委員会で、ラムサール登録の手続きが進まない理由についてこう答弁しました。
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「ラムサール登録の前提として国指定の鳥獣保護区特別保護地区にする必要がある。そうなると、たとえば水面の埋め立てや建物の建設をする場合に環境大臣の許可が必要になる」
Q21 第二湾岸道路の計画はいまでも残っている?
第二湾岸道路(第二東京湾岸道路)は、首都圏の「3環状9放射道路ネットワーク」の一環をなしており、いまも県の重要施策として位置づけられています。県は毎年、その早期具体化を政府(国交省)に要望しています。
この道路は、東京都大田区城南島と千葉県市原市廿五里(ついへいじ)を結ぶ延長約50kmの高速道路です。東京都の埋め立て地と、千葉県の浦安、船橋、習志野、千葉の埋め立て地にはすでに8車線の用地が確保されています。三番瀬で中ぶらりんになっているため、三番瀬をどう通すかかが最大の課題になっています。
千葉市美浜区の幕張メッセ(写真右の建物)と千葉マリンスタジアム(左の建物)
の間に確保された第二湾岸道用地(8車線)。
浦安市の第二湾岸道路用地(8車線)は猫実川河口域の護岸につきあたる
Q22 第二湾岸道路はつくれないのでは、という声もあるが?
通行量が減少傾向にあることから、高速道路は必要ありません。第二湾岸道路はムダです。県は、北西部臨海地域の交通渋滞が慢性化していると宣伝していますが、それは一般道路の話です。高速道路(東関東自動車)はあまり渋滞していません。高速道路はこれ以上いらないのです。
それでも、県は第二湾岸道路を県の最重要施策の一つに位置づけています。要するに、必要性や費用対効果は二の次、三の次です。つくること自体が目的となっているのです。
Q23 「三番瀬は環境が悪化している」と言う人がいるが?
それは、事実を無視したとんでもない言い草です。たしかに、三番瀬の環境は、埋め立てが始まる前の1950年当時と比べると悪くなっています。約1300haも埋め立てられたのですから当然です。しかし、埋め立てが終わった1985年(昭和60)以降は、地形が安定しており、環境も改善傾向にあります。微生物(プランクトン)、ゴカイ、カニ、魚、貝、水鳥などの生き物の量が非常に多く、けっして減ってはいません。
水鳥の数は全国的にみても多く、2004年の環境省調査によると、スズガモは全国1位、ハマシギは全国3位(東京湾では1位)です。これは、現在も水鳥のエサとなる生き物が多いということを示しています。
猫実川河口域についていえば、江戸川流域下水道第二終末処理場の処理水が猫実川下流部に常時放流されていたときは環境が悪くなっていましたが、常時放流先が旧江戸川に変更された1993年以降は改善に向かっています。
「環境が悪化している」と言う人は、その理由として、アサリやノリの漁獲量減少や「アオサ堆積による底泥の無酸素状態」などをあげます。しかし、アサリやノリの漁獲量減少は、三番瀬そのものが悪くなったためではありません。その大きな原因は、河川から大量の汚濁物質が流入することや、青潮の発生、さらには台風(集中豪雨)時に行徳可動堰が開放され、江戸川放水路から大量の淡水・汚泥が流入することによるものです。ちなみに、ノリ不作については、水温上昇や船橋市の下水処理水放流も影響を与えるといわれています。
三番瀬は、青潮の影響が小さかったり、江戸川放水路からの大量淡水・汚泥流入がない場合は、アサリが大発生します。 2008年は、船橋漁港に2か月余で約1800トンのマイワシが水揚げされました。この水揚げ量は日本一です。また、「船橋市漁協は、スズキの水揚げ日本一」(『毎日新聞』2008年8月30日)とも報じられています。こうした漁獲量の多さには、三番瀬が大きく貢献しています。ですから、船橋市漁協の大野一敏組合長も、「三番瀬が無くなると東京湾の魚がいなくなる。いわば湾の生命維持装置」(『朝日新聞』2009年6月18日)と話しています。
「アオサ堆積による底泥の無酸素状態」についていえば、事実とまったく違います。
県の「補足調査」では、酸化還元電位や強熱減量の測定結果にもとづき、三番瀬の底泥は大部分が無酸素状態ではないという結果が示されています。また、「三番瀬市民調査の会」が2003年から続けている猫実川河口域の酸化還元電位と強熱減量の測定でも「補足調査」と同じ結果がでています。アオサの近年の発生・堆積についてみても、県水産総合研究センターの調査では、2005年(平成17)11月頃のアオサの推定発生量は7000トンとなっていますが、ほかの年はほとんどが1000トン以下であり、低い水準です。県農林水産部水産局作成の資料(「三番瀬漁場再生検討委員会の検討状況について」)でも、2007、2008年度はアオサの発生量が少なく、08年度はアオサ回収が必要なかった、と記されています。
Q24 環境省のガンカモ類調査結果では
スズガモが減少しているようだが?
環境省のガンカモ類生息調査結果によれば、三番瀬におけるスズガモの飛来数はこうなっています。1997年7万2818、98年4万693、99年6万9321、2000年9万8450、01年8万6500、02年6万4730、03年9万1436、04年5万9871、05年6万3112、06年4万9203、07年5万1115、08年4万2554。
ご覧のように、年によってかなりバラツキがあります。この調査は年に1回(1日)だけですから、変動があるのは当然です。
環境省野生生物課の担当者もこう述べています。
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「一般的に、鳥の数は年により変動があり、この数字だけで増減を判断するのはむずかしい」
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「三番瀬は、ラムサール登録の国際的基準『基準5』の定期的に2万羽以上の水鳥を支えている湿地に値する」
Q25 ミヤコドリが増えていると聞くが?
三番瀬では近年、珍鳥のミヤコドリが年々増えています。1995年(平成7)〜2000年(平成12)は20羽以下でしたが、2001年の40羽から増え続け、最近では200羽を超えるまでに増加し、日本に渡来する数の過半数を占めるまでになっています。
ミヤコドリは、干潟のシオフキやマテガイなどの二枚貝が大好物です。このことは、三番瀬は底生生物などのエサが豊富であることを示しています。
ミヤコドリ
Q26 三番瀬の漁業はどうなっている?
■三番瀬がなくなると東京湾の魚がいなくなる
2009年6月18日の『朝日新聞』(千葉版)は、こう報じています。
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《三番瀬は同市から浦安沖にかけ広がる1800haの浅瀬。干潮時は水深2〜0mと、海底も顔を見せる。アジやゴマサバ、スズキ、カレイ、エボダイ、カマス…。タチウオやトラフグも交じる。船橋漁港を彩る東京湾の魚たちも三番瀬の恵みを受ける。昨年はマイワシが1742トンと約20年ぶりの豊漁だった。(中略)大野一敏同漁協組合長(70)は、「いまは悪臭もなくなり、見た目にもきれいな海になった」と振り返る。(中略)江戸時代から漁が盛んな場所。1個体のアサリが数千の卵を産み、湾内を浮遊、それをエサに魚が群がる。日々繰り返される干満の営み。大野さんは、「酸素が直に供給される。三番瀬が無くなると東京湾の魚がいなくなる。いわば湾の生命維持装置」と話す。》
Q27 転業準備資金問題というのは何?
「転業準備資金」というのは、市川2期埋め立ての計画が策定されていない段階で、埋め立てを前提とし、1982年(昭和57)に市川市行徳漁協に融資されたものです。当時の県企業庁、行徳漁協、金融機関の三者合意により、金融機関から約43億円が貸し付けられ、利子については企業庁が肩代わりすることになっていました。この融資は漁業権を放棄した場合に見合う補償金相当額であり、脱法的な事前漁業補償です。
1999年11月、この事実が突如として明らかになりました。企業庁は2000年2月、その利息分として約56億円の支出を予算化しました。そのため、三番瀬保護団体のメンバーなど(三番瀬公金違法支出訴訟原告団)がその支出を違法とし、提訴しました。千葉地裁は2005年10月、三者合意には瑕疵(かし)があると指摘しましたが、利子肩代わりは「企業庁長の裁量内」とし、訴えを退けました。
企業庁は2008年11月、東京地裁の調停委員会の提案にもとづき、計60億円を市川市行徳に支払いました。60億円の内訳はこうです。
・転業準備資金貸付分………………… 43億円
・その未払い利息分…………………… 2億円
(利息56億円は肩代わり済み)
・組合員への追加賠償分……………… 15億円
結局、116億円(56億円+60億円)を県(企業庁)が公費支出することで「解決」を図ることになりました。埋め立てが行われなかったわけですから、本当は1円も払うべきでないものです。不当支出であり、地裁判決をも無視したものです。そこで、「三番瀬公金違法支出判決を活かす会」は08年12月、公金支出を県民全体の利益につなげることなどを求めた声明を堂本暁子知事(当時)あてに提出しました。声明では、この問題は巨額の公金支出だけでは解決にならないと指摘し、ラムサール条約への登録など、三番瀬の恒久的保全を明確にしてこそ抜本的に解決できるなどとしています。
傍聴券を確保するため千葉地裁前に並ぶ支援者たち(2000年10月)
市川市内をデモ行進し、公金支出の違法性を市民に訴え(2001年3月)
Q28 三番瀬の保全策で必要なことは?
私たちは、三番瀬の保全・再生のあり方について次のようなことを提案しています。
(1) 現状の干潟・浅瀬はすべて残そう
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東京湾の干潟が埋め立てによって9割も消失した中で、わずかに残った干潟・浅瀬をこれ以上つぶすべきではありません。
三番瀬は、船橋側と市川側では底質環境などがかなり異なっていて、多様性が三番瀬の大きな特長です。三番瀬の生態系は、多様な環境と生物、漁業などが微妙なバランスを保ちながら成り立っています。したがって、人工的に改変すればとんでもないことになります。これは、諫早湾の干拓が有明海の環境や漁業に大打撃を与えていることをみても明らかです。自然は人間の思いどおりにはなりません。現状の干潟・浅瀬はすべて残すべきです。三番瀬を第二の諫早にしてはいけません。
(2) 浅瀬に砂を入れて人工干潟をつくることは許されない
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浅瀬(浅海域)は、生物生産量が大きく、干潟と同様に大切な場所です。浅瀬を埋め立てて人工干潟をつくることは、名古屋市の藤前干潟では否定されました。三番瀬でも、浅瀬を埋め立てて(砂を入れて)、人工干潟(干出域)をつくることは許されません。人工干潟は、自然の干潟や浅瀬に比べると、生物相が貧弱で、水質浄化能力も劣ります。全国的にみても、人工干潟の成功例はありません。
(3) 早急にやるべきことは阻害要因を取り除くこと
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三番瀬の保全・再生を進めるうえで大事なことは、三番瀬に悪影響を与えているものをできるだけ取り除くことです。
たとえば、いまの三番瀬にとって最大の弊害となっているのは、青潮の襲来と台風時の行徳可動堰開放による淡水・汚泥の大量流入です。その対策を講じるべきです。
また、沿岸の市川市と船橋市の下水道普及率は全国平均や千葉県平均を下回っており、下水道整備がかなり遅れています。そのため、三番瀬に流入する河川には家庭雑排水が未処理のまま放流され、川がものすごく汚れています。たとえば、市川市内を流れ、三番瀬に流入する真間川流域の春木川は「2003年度日本の汚い川」(環境省発表)のワースト1、同じく国分川はワースト5です。船橋市内を流れる海老川もたいへん汚れています。三番瀬は、流入汚濁をかなり浄化していますが、限界があります。三番瀬の環境改善で早急に求められているのは、こうした阻害要因を取り除くことです。
(4) 淡水導入や埋め立て地の湿地復元
-
「三番瀬再生計画案」(三番瀬円卓会議による提言)に盛り込まれている次のような施策を積極的に講じるべきです。
- 市川市塩浜2丁目の護岸の一部を撤去し、その陸側(市有地)を湿地化する
- 猫実川とその後背地域の湿地・干潟化
- 行徳鳥獣保護区と三番瀬との連絡水路の開渠化
- 江戸川から小河川や水路を通じた三番瀬への淡水導入
(5) ラムサール条約登録
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私たちは、ラムサール条約に登録し、世界基準で湿地を保全・修復していくことが、三番瀬の生き物や市民、漁業者にとってもいちばんよいことであると確信しています。環境省も三番瀬を有力候補地にあげていることから、登録手続きを早急に進めるべきです。
また、円卓会議が提案した三番瀬保全条例も早急に制定すべきです。
(2010年1月)
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