第二の危機に直面している三番瀬
〜丸山慎一県議が講演〜
「第二の危機に直面している三番瀬」と題した講演会が(2010年)1月22日に船橋市女性センターで開かれました。主催は「三番瀬を守る会」、講師は千葉県議会議員の丸山慎一さんです。
講演要旨は以下のとおりです。
講演要旨 |
第二の危機に直面している三番瀬
〜埋め立て推進派の巻き返しを許さずラムサール条約登録を〜
◆三番瀬はすばらしい自然環境を保っている
三番瀬のひとつの大きな特徴は、二つの異なった環境を擁していることである。船橋側には広大な砂干潟が広がり、市川側には泥干潟が広がっている。
砂干潟と泥干潟はそれぞれ異なった価値をもっている。砂干潟にはアサリなどがたくさん生息している。一方、泥干潟には、アナジャコやウミゴマツボなどが生息している。泥干潟は、三番瀬円卓会議の提言にも「三番瀬の生物多様性の保全においてとくに重要な場所」と記されている。
このように、三番瀬は生物多様性にとっても大きな意義をもっている。
◆101ha埋め立ての目的は第二湾岸道路だった
三番瀬は遠浅の海だからこそ、生物の宝庫となっている。しかし、遠浅の海は埋め立てがしやすい。しかも、三番瀬は東京に近いために、埋め立ての圧力が強く働いている。
千葉県は1993年、三番瀬を740ha埋め立てるという市川2期・京葉港2期埋め立て計画を発表した。
しかし、補足調査を実施した結果、自然の豊かさや水質浄化能力の高さなどが明らかになった。水質浄化能力についていえば、三番瀬は13万人分の下水処理場と同じ働きをしていることがわかった。
この調査は、三番瀬の価値を全国に知らしめた。埋め立て反対運動の高まりなどもあり、県は1999年6月、埋め立て面積を101haに大幅縮小した。
縮小後の101ha埋め立て計画は、第二湾岸道路(第二東京湾岸道路)を通すために最低限必要なものだった。それは、計画図をみれば一目瞭然である。
第二湾岸道路を通すためには三番瀬を埋め立てることがどうしても必要──。これがいまでもつづいている。これは三番瀬問題の最大のカギともなっている。
◆埋め立て白紙撤回にはマイナスの種が含まれていた
堂本前知事は、2001年春の知事選で三番瀬埋め立て計画の白紙撤回を掲げて当選した。そして、その年の9月に白紙撤回した。
しかし、この白紙撤回にはマイナスの種が含まれていた。
ひとつは、第二湾岸道路の問題だ。「第二湾岸道路計画も白紙に戻す」と言えば、現在のこういう状況はないかもしれない。ところが、「埋め立て計画は撤回するが、第二湾岸道路はつくる」と、矛盾することを言った。だから、その後もずっと尾を引いている。将来に禍根(かこん)を残すことをやったということだ。
堂本知事は、第二湾岸道路について「三番瀬の自然環境と調和のとれた計画となるようにしたい」と言いつづけた。三番瀬に第二湾岸道路を通すことと三番瀬の自然環境を保全することは絶対に調和がとれないはずなのに、そんな矛盾したことを言いつづけた。
もうひとつの禍根は、再生計画である。白紙撤回後の三番瀬について、「保全する」ではなく「再生する」としたことだ。「保全する」とか「ラムサール条約の登録湿地にする」と言えば高く評価できた。しかし、そうではなく「再生する」とした。
「再生」にはいろいろな意味が含まれていて、三番瀬に砂を入れて人工干潟をつくるのも「再生」としている。
この「再生」という言葉は、堂本知事だけでなく、県当局全体で考えたキーワードである。「保全」とか「守る」という言葉はあえて使わないようにした。
第二湾岸道路と「再生」──。この2つが禍根を残し、いまだに尾を引いている。堂本知事の埋め立て計画白紙撤回は不徹底だったということである。
そして、埋め立て推進派はいま、この2つを最大限に利用して巻き返しをはかっている。
◆埋め立て推進派のネライは開発と利権
埋め立て推進派の巻き返しだが、ひとつは市川市などの動きだ。
市川市長などは昨年5月、猫実川河口域の人工干潟化を求める要望書を森田知事に提出した。これに対して森田知事は、「一番大事なのは、地元の考えだ」と伝えた。知事が言う「地元」というのは、人工干潟化を求めている市川市や、市川市の2漁協、再開発推進団体などのことだ。
三番瀬の猫実川河口域に面する市川市塩浜2、3丁目の埋め立て地の場合は、後背地の湾岸道路の陸側に海岸保全区域が設定されていた。防潮堤もそこに設置されている。
海岸保全区域から海側の埋め立て地は工業専用地域などとなっていて、台風時などに浸水被害を受けても仕方がないとされていた。当然のことながら人は住んではいけないとされていて、倉庫などしか建てられなかった。したがって、そこの分譲価格は非常に安いものだった。立地企業は二束三文でこの土地を取得した。
ところが、県は2004年7月に海岸保全区域をじっさいの海岸線(埋め立て地の前面)に移動させた。そのことによって、それらの土地の価格が急騰することになった。
市川市や地権者たちは、その土地の再開発を区画整理方式で進めている。その再開発は、猫実川河口域の「人工干潟化」(=人工海浜化)を前提にしている。こういうことから、市川市などは、猫実川河口域の人工干潟化を強く求めている。要するに、開発と利権のために、三番瀬を土砂で埋めようとしているのである。
なお、従来の海岸保全区域は、新しい海岸保全区域の護岸改修が完了した時点で廃止されることになっている。
◆自民党も人工干潟化をねらって再生会議を攻撃
県議会でも、埋め立て推進派である自民党が巻き返しを図っている。
そのポイントは3つある。(1)三番瀬は環境悪化しているということを強調する、(2)猫実川河口域の人工干潟化を求める、(3)三番瀬再生会議を攻撃する──の3つだ。
たとえば昨年6月県議会で、矢野光正議員(自民党)はこんなことを主張した。
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「今の三番瀬というものは、潮の流れが停滞して、生物にとって環境が悪化している」「手を加えて意図的に再生を行わなければ本当の再生はできない」
「かつての三番瀬を再生するのであれば、きわめてゆるやかな傾斜が沖までずっと長く続いていくといったような海岸線にするべきである」
「(三番瀬再生会議は)あえて再生への遠回りを考えている方々をそのメンバーに加わっていただいているとも思いたくなる状況ではないのか」「三番瀬にかかわる委員会などをでき得れば一度メンバーを入れ替わっていただく、あるいは解散して委員会自体を再生する、そういったような手法をこの場でご提案させていただきたい」(以上、2009年6月定例県議会予算委員会議事録より)
◆巻き返しを許さず、運動を強めることが必要
再開発の事業主体である市川市塩浜協議会(地権者などで構成)や市川市の2漁協などは、猫実川河口域の人工干潟化を求める請願を2009年の9月県議会に提出した。請願は、自民・公明の多数で採択された。
しかし、県が12月県議会に提出した回答をみると、これまでの対応と変わりないものとなっている。そこには、人工干潟化に反対し、三番瀬の恒久保全を求める運動が効(き)いている。ここに確信をもって、運動を今後も強めていくことが必要である。
◆第二湾岸道路は必要性がなくなった
第二湾岸道路をつくる目的は、交通量増大と交通渋滞だった。県は1999年、「東京・千葉間の現在の交通量45万7000台がおおむね20年後の59万4000台に増えるから必要」と説明した。
ところが、実際の交通量は減っている。
東京と千葉をつなぐ6本の道路(高速湾岸線、京葉道路、国道14号、国道357号、国道東京市川線、県道東京浦安線)の1日の交通量は、1997年は計45万7000台だったが、2005年は42万1000台に減っている。
交通渋滞も緩和傾向にある。たとえば、高浜交差点(国道357号+市道本行徳高浜線)の渋滞は、1997年は1750mだったのが、2007年は480mとなっている。二俣交差点(国道357号+市道101号)の渋滞も、840mから180mに減っている。
このように、交通量と渋滞が減少しているのは、自動車台数が減少していることと、交差点の改良工事が進んでいるためである。
◆ラムサール登録の段階的登録を
三番瀬を恒久的に保全するためには、ラムサール条約に登録することが必要だ。環境省は三番瀬を候補地にあげている。それなのに登録が進まないのは、市川の2つの漁協(市川市行徳・南行徳漁協)が反対しているからだ。しかし、船橋側の船橋漁協は2008年3月に賛成決議をあげた。船橋側では反対する団体がいなくなった。
それならば、とりあえず船橋側を段階的に登録することが必要だ。船橋側をじっさいに登録してみて、漁業に影響が出るかどうかみればよい。漁業に悪影響がでないとわかったら、市川側も登録すればいい。
ラムサール登録の段階的登録については、琵琶湖で2008年10月に西之湖を拡大登録したという実例がある。
◆県民運動を広げよう
いま、三番瀬の保全をめぐって保全派と埋め立て推進派が拮抗(きっこう)している。
埋め立て計画の白紙撤回によって船橋側の海域は残されることになった。そのため、「三番瀬は保全された」という誤解も広がっている。
しかし、県は第二湾岸道路を「ふなばし三番瀬海浜公園」の裏側に通そうといているとも聞く。そうなれば、野鳥の飛来にも影響がでる。
また、市川側の猫実川河口域が土砂で埋め立てられて泥干潟がなくなれば、三番瀬は大きな打撃を受けることになる。船橋側も影響を受けるし、谷津干潟にも大きな影響がおよぶ。
そういうことから、猫実川河口域の人工干潟化や第二湾岸道路の建設はなんとしてでもやめさせることが必要だ。そして、三番瀬を恒久的に保全するため、ラムサール登録を求める県民運動を広げることが求められている。
(文責・千葉県自然保護連合事務局)
講演に聞き入る参加者
三番瀬を守る会の田久保晴孝会長(左)と丸山慎一県議(右)
県は2004年7月、海岸保全区域を埋め立て地の前面に移動。 そのため、再開発予定地の地価が急騰することになった。
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