人工干潟造成は二重の自然破壊
三番瀬を守る連絡会 中山敏則
(2014年)1月18日、三番瀬ミーティングが市川市行徳公民館で開かれました。これは、三番瀬再生事業について地元住民、漁業関係者、環境保護団体などから広く意見を聴くことを目的に、千葉県が開いているものです。今回のミーティングでは、 三番瀬再生計画(第3次事業計画)(案)の柱となっている「干潟的環境の形成」(人工干潟造成)や、遅々として進まないラムサール条約登録について意見が相次ぎました。
以下は、私の発言内容です。
三番瀬再生計画(第3次事業計画)(案)について2点発言します。
1点目は、「(3年後は)県がそれぞれの分野で行う施策の中で対応する」(3ページ)と書かれていることについてです。
三番瀬の環境改善は、それぞれの分野にかかわる部局が連携しあい、総合的にとりくまなければ実現されません。したがって、各部局が縦割りで施策を検討するということになれば、三番瀬の環境改善はますます困難になると思います。3年後もいまのしくみを続け、施策を総合的に推進してください。
2点目は、三番瀬海域での人工干潟造成はやめてほしいということです。
第3次事業計画(案)の本文には、「干潟的環境の形成」という言葉が20カ所も記載されています。県がやりたいのは「干潟的環境の形成」、つまり人工干潟の造成だけではないかと思ってしまいます。
しかし、三番瀬の浅場に土砂を入れて人工干潟にすることは、二重の自然破壊につながります。
ひとつは三番瀬の生態系を破壊するということです。
かつて、藤前干潟を人工干潟にするという名古屋市の計画について、環境庁(現環境省)はストップをかけました。環境庁が1998(平成10)年2月に発表した「藤前干潟における干潟改変に対する見解について(中間とりまとめ概要)」は次のように書いています。
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「生物の豊かな干潟は、干潟単独で成立維持されるものではなく、周辺の浅場とも密接な関係を持ちながら全体として生態系を維持している。(中略)藤前干潟周辺の浅場は干潟生態系を支えている重要な要素といっても過言ではない。周辺浅場を改変することは干潟の改変と同様に深刻な影響を与えるものと考えられ、厳に慎む必要があると考えられる」
もうひとつの自然破壊は土砂の調達先です。
人工干潟を造成する場合、それに用いる土砂は膨大です。その土砂はどこからもってくるのかということです。
これまでの人工干潟造成試験では君津地域の山砂が使われました。三番瀬の漁場内の覆砂でも平成24年度は君津の山砂が使われました。
白紙撤回された三番瀬埋め立て計画では、富津市にある鬼泪山(きなだやま)国有林の山砂を使うことが決まっていました。1994年3月26日の『毎日新聞』千葉版によれば、県土石採取対策審議会は、三番瀬埋め立て(市川二期・京葉港二期埋め立て)の工事用などとして、鬼泪山国有林の山砂5600万m3を採取することの認可継続を認めたとされています。
今後、三番瀬で大規模な人工干潟を造成する場合、「君津地域では民有地からの大量の山砂採取は困難」「鬼泪山国有林しかないのではないか」という話も聞きます。県は、人工干潟造成に用いる土砂の調達先としてどこを考えているのでしょうか。
昨年9月の三番瀬ミーティングでは、土砂の調達先は「検討していない」との回答でした。しかし、人工干潟造成と土砂の調達は密接不可分です。大量の土砂を調達できなければ人工干潟は造成できません。土砂の調達を考えずに人工干潟化をめざすというのは、資金調達を考えないで家を建てようとするのと同じです。
そこで、「干潟的環境の形成」をめざすのであれば、土砂の調達をどうするかということを「第3次事業計画」に明記してほしいと思います。
ちなみに、いま、沖縄の辺野古(へのこ)の埋め立てが大きな問題になっています。埋め立て承認申請書では2000万m3の土砂を使うとされています。そのうち、岩ズリ(岩石をくだいたもの)の調達先は、沖縄県内で2カ所、県外で7カ所があげられています。たとえば、瀬戸内海では小豆島と黒髪島(くろかみじま)が岩ズリ採取場所になっています。そのため、瀬戸内海沿岸の環境団体は、瀬戸内海の自然環境や景観をさらに悪くするもので“二重の自然破壊”として、辺野古の埋め立てと岩ズリ採取に反対しています。
三番瀬の人工干潟造成は、同じような問題を引き起こすことになります。横浜市の人工海浜「海の公園」の造成では、鬼泪山国有林につながっていた浅間山(せんげんやま)の土砂が使われました。浅間山はそっくりなくなってしまいました。そんなことはもうやめてほしいと思います。
(2014年1月)
千葉県主催の三番瀬ミーティング=2014年1月18日、市川市行徳公民館
★千葉県庁の関係ページ
★関連ページ
- 人工干潟とラムサール条約登録に意見集中〜県主催「三番瀬ミーティング」(2014/1/18)
- 人工干潟造成は「県がやるべき」〜三番瀬問題で市川市が表明(2013/5/23)
- 青潮対策や人工干潟化に批判相次ぐ〜千葉県主催「三番瀬ミーティング」(2013/3/23)
- ふなばし三番瀬海浜公園前の干潟は人工干潟ではない〜ただの埋め戻し(中山敏則、2012/8)
- 人工干潟は干潟ではない〜安田八十五・関東学院大教授が講演(2011/2/5)
- “自然再生とは何か”が問われている三番瀬〜『中学校社会科のしおり』付録(県自然保護連合、2008/4)
- 霞ヶ浦人工砂浜の惨状をえぐる<〜TBS「噂の!東京マガジン」(2008/3/30)
- 人工干潟は期待はずれの結果に〜三河湾の人工干潟と天然干潟を見学(2007/1/14)
- 「人工干潟にすれば昔の海がよみがえる」はバカげた主張(鈴木良雄、2006/10)
- 自然の浅瀬を潰しての人工海浜造成は愚行(鈴木良雄、2005/7)
- 市川市による埋め立てキャンペーン本のウソ(石井伸二、2003/4)
- 市川市が三番瀬埋め立てキャンペーンの本を出版(石井伸二、2003/4)
- 「環境学習の場として人工干潟が必要」を批判する(中山敏則、2002/10)
- 「船橋海浜公園前の三番瀬=人工干潟の成功例」は大間違い〜失敗に終わった人工海浜計画(県自然保護連合事務局、2001/10)
- 藤前干潟における干潟改変に対する見解について(中間とりまとめ概要)(環境庁環境影響審査室、1998/2/18)
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