先住者に対し「お前らいらない」は無礼
〜三番瀬カキ礁を有害物扱いする学者〜
中山敏則
立花隆氏が著した『エコロジー的思考のすすめ』(中公文庫)と『マザーネイチャーズ・トーク』(新潮文庫)を読みました。前者は1990年、後者は1997年に発行されたものですが、内容は少しも古びていません。
『エコロジー的思考のすすめ』では、立花隆氏と河合雅雄氏のこんな対談が目にとまりました。
■人間より何十億年も前から地球に住んでいる先住者に対し、
お前らいらないから出ていけみたいなことを言うな!
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《【立花】下北半島などでサルが人里に出てきてという、例の猿害の問題なんかも、サルが住める森がもうなくなっちゃったからなんでしょう。
【河合】僕ら、声を高うしても全然聞いてもらえなくて、嘆いとるんですが、森というと、日本は植物だけを考えるわけです。ヨーロッパでは森といえばそこに住む動物も含めて考える。森林官というのがおりましてね、森にいるシカの管理からリスの管理からみんなやっとるんです。植物があれば、当然生きている動物がいっぱいいる、これが森なんです。ところが日本は森といったら、植物だけなんです。動物はだいたい悪ものなんです。これはなぜかというと、幾つも原因があるけど、一つは、生業がピュアな農耕民というのは世界中で非常に少ないんですが、日本はそのピュアな農耕民なんです。ヨーロッパでも中国でも、みんな農耕牧畜民でしょう。動物というのは、どれだけ大事か、知っとるわけですよ。きわめつきの農耕民の目でみれば、動物は大体害獣なんです。
【立花】それはそうですね。
【河合】悪者はやっつけろということになるんですわ。そういう目で見るから、自然保護、自然保護というけど、ほとんど植物と「貴重な動物」というような話になるんですよ。貴重でなかったらあかんのですよ。そんなこと言うとるうちに、今、メダカもトンボもみんないなくなって、急に全部貴重になったんです。
【立花】しかしそのうち人間が貴重な動物になったとき、誰かが保護しなきゃと言ってくれるかといったら、誰もいないですね(笑)。》
《【立花】微生物は、人間より何十億年も前から地球に住んでいる先住者なわけですから、もうお前らいらないから出ていけみたいな生意気なことを言っちゃいけませんよね。そもそも、いまも目に見えないだけで世界は微生物に満ち満ちているんであって、地球の主人公は人間でなくて微生物だと言ってもいいくらいですよね。》
■カキを除去すべきと主張する学者と環境団体
これを読んで、私は溜飲が下がりました。
というのは、三番瀬の猫実川河口域(市川側海域)に存在する天然のカキ礁を「有害物」と決めつけ、排除すべきと主張する学者や環境団体のメンバーがいるからです。
たとえば底生生物研究の権威者とされる学者です。この方は、そういうことを盛んに主張しています。カキは足を切ったりするので、「人間にとって危険な生物である」ということを盛んに吹聴しているのです。そして、猫実川河口域のカキ礁を除去し、そこに土砂を入れて人工干潟にすべきということを主張しています。
■マガキ類は1億5千万年ほどの歴史がある
しかし、「マガキ類には1億5千万年ほどの歴史がある」(鎮西清高・京都大学名誉教授)といわれています。猫実川河口域のカキ礁を構成するマガキは、人間よりずっと前から地球上に存在する先住者です。
しかも、カキは、人間にとって食料などとして大きな貢献をしてきました。
そんな先住生物に対し、「有害物だから除去してしまえ!」というのは無礼です。立花氏の言葉を借りれば「生意気なことを言うな!」です。
■生態学者のなかにも、生態学的なものの見方を
十分に身につけているとはいいがたい人がいる
そんなレベルの学者が底生生物研究の権威者とされているのです。
立花氏は、こんなことも言っています。
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《生態学それ自体は何も救うことができない。必要なのは、生態学的なものの見方である。実をいえば、生態学者のなかにも、まだ生態学的なものの見方を十分に身につけているとはいいがたい人びとがいる。》(立花隆『エコロジー的思考のすすめ』中公文庫)
(2009年1月)
猫実川河口域にある約5000平方メートルの天然カキ礁。
ここ数年、広がりはみられない。
生きたカキが積み重なってできたカキ礁
イダテンギンポがカキ殻のなかに無数の卵を産みつけ、それを守っている。
カキ殻にびっしりはりついたイダテンギンポの卵
イダテンギンポの卵。ルーペで見ると、目玉が見える
カキ殻の中にびっしり産みつけられたチチブ(と思われる)の卵。
もう少しで孵(かえ)るところだと思われる。
カキ礁の生き物を調査
カキ礁では、イボニシ、ケフサイソガニ、ヤドカリ、ギンポ、
ウネナシトマヤガイなどたくさんの生き物を発見できる。
マガキにくっついて産卵中のアカニシ。卵は、長刀(なぎなた)
に似ていることからナギナタホウズキともよばれている。
同じマガキの塊でイボニシも産卵中(左)。右は産卵中のアカニシ
カキ殻の中では、シモフリシマハゼもペアで抱卵(産卵)中。
★関連ページ
- カキ礁復活で有明海再生をめざす〜佐賀県鹿島市沖(県自然保護連合、2010/10)
- 秘策はカキの浄化力活用〜NHK「東京に海水浴場を取り戻す」(県自然保護連合、2010/8)
- カキ礁の大切さを教えてくれる本〜フィリップ・キュリー/イヴ・ミズレー共著『魚のいない海』(中山敏則、2009/5)
- カキ礁を目の敵にし、三番瀬の人工干潟化を口説く本〜『干潟ウォッチング フィールドガイド』(「自然通信ちば」編集部、2007/6)
- 「人工海浜(干潟)にすべき」の大合唱〜東邦大シンポ「三番瀬の環境再生計画」(高木信行、2006/3)
- カキが支える多様な生態系〜カキ礁の役割(倉谷うらら、2005/6)
- 三番瀬・猫実川河口域に広がるカキ礁(倉谷うらら、2005/6)
- カキ礁の多様な機能などを学ぶ〜日米カキ礁シンポジウム(2007/4/8)
- 世界に誇れる三番瀬のカキ礁を守ろう〜米国・チェサピーク湾からの報告(2006/7/8)
- 三番瀬のカキ礁と泥質干潟の保全を求める〜8団体が県知事に要望書(2006/6/28)
- 東京湾の奇跡「巨大カキ礁」がつぶされる!!〜『サンデー毎日』が報道(2005/7/24)
- 人工干潟造成派の学者をカキ礁研究会が批判(2005/6/18)
- カキの自然史とカキ礁の豊かな生態系を学ぶ〜三番瀬のカキ礁講演会(2005/6/18)
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