秘策はカキの浄化力活用

〜NHK「東京に海水浴場を取り戻す」〜

千葉県自然保護連合事務局

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 (2010年)8月22日、NHK BShi「NHK地球ドキュメント ミッション」が「東京に海水浴場を取り戻す」を再放送しました。江戸前の元漁師たちが葛西臨海公園前で海水浴場復活にとりんでいることを紹介したものです。
 印象的だったのは、カキ(牡蠣)を活用した水質浄化と、流入河川の流域にも目を向けなければならないという話です。
 こんな内容でした。


沖合に竹のカーテンをはりめぐらす


 この番組は、世界を変えるミッションの挑戦者といっしょに困難な壁をのりこえる方法を考えるものです。今回のミッションは、東京に海水浴場を取り戻すことです。
 ミッションに挑むのは東京の海で育った4人の男たちです。ミッション達成のために考え出した秘策とは──

 4人は、東京・葛西臨海公園の西なぎさを浄化し、「遊泳禁止」看板の撤去をめざしています。
 4人が持っているのは竹です。これが海の浄化の切り札です。海の中に竹をさしておくと、貝や海藻が付着する。貝は海を浄化する能力があります。
 ミッション達成のために、4人は西なぎさの沖合に竹のカーテンをはりめぐらせようとしています。
 1年前にさした竹や杭には、貝や海藻がびっしり付着しています。効果はてきめんです。海が透き通っています。


カキがいっぱいいる水域は水が透明になる


 建築家の関口雄三さん(62歳)は漁師の息子です。こう語ります。
     「カキなどがいっぱいいる水域は水がものすごく透明になる」
     「なるべく自然の物の素材で海を育てたい。付けばいいじゃなくて、感性の問題があるから、やっぱり砂浜には自然の物がいい」
 関口さんら4人は、代々受け継がれてきた海についての知恵を今に活かせば泳げる海をとりもどせると、自信をもっています。


東京湾はカキの宝庫だった


 東京湾の豊かさを示す風景があります。西なぎさに大潮のときだけに現れる不思議な島。これは全部、天然のカキで自然にできた島、カキ礁です。

 東京湾はかつてカキの宝庫でした。明治時代は全国一の水揚げがあったほどです。カキなどの二枚貝はすぐれた浄化能力をもっています。こうした生き物を増やせば、海は自然ときれいになっていきます。

 カキの驚くべき浄化能力を示す実験をみてましょう。カキを入れた水槽の中に、汚れに見立てたかたくり粉を入れて変化をみてみます。そうしたら、25分で海水がきれいになりました。  カキは、1個で1日に400リットルの海水を濾過(ろか)するといわれています。
 関口さんたちは、この浄化能力を活かしてミッションを達成しようとしているのです。竹のカーテンができれば、多くのカキが付着し、海はきれいになるはずです。


森、川、海をトータルで考える


 関口さんたちのとりくみについて、「ミッションマスター」の畠山重篤(しげあつ)さんがアドバイスしました。
 畠山さんは宮城県気仙沼でカキの養殖を営む漁師です。「カキの父」とも呼ばれています。
 畠山さんは、赤潮の海をきれいにし、おいしいカキを育てるため、20年以上前から画期的なとりくみをつづけています。その方法は、気仙沼に流れ込む大川の上流に位置する室根山に木を植え、海に流れ込む大川の水をきれいにすることです。
 「森は海の恋人」をスローガンにし、3万本の広葉樹を植林してきました。漁師だからこそみつけた“森と海のつながり”です。いまでは日本中で賛同者が出現し、大きなうねりとなっています。植林した森は「牡蠣(かき)の森」と名づけられています。

 畠山さんは、関口さんたちの「海水浴場復活プロジェクト」についてこうアドバイスしました。
     「みなさんの活動も、目の前の海のことだけをみている。荒川や多摩川などの流域全体でモノをみていかないと最終的な解決にはならないと思う」
    (気仙沼でとれた立派なカキを見せながら)
     「東京湾のカキだって、そのうちに食べられるようになる。東京湾にも有名なカキがいっぱいいる。縄文時代からいる。縄文人は海の中に杭をうって、それにカキをくっつけていた。そういう歴史がわかっている。杭をうてば、だまっていてもカキはつく。だから、杭をうつのはいい方法だと思う」
     「汽水域(川の水と海水が混じり合う海域)の水質をよくするためには、川の流域全体をよくすることが必要だ。森林までかかわってくるということだ。そのためには、川の流域に住んでいる人びとの心に木を植えなければならない。つまり、人びとの意識を変えなければならないということだ」
     「じつは埼玉県には、東京湾のことも思って、荒川の流域に木を植えている人びとがいる。だから、運動の輪を広げ、上流の秩父の森にまで目を向けて情報を発信していけば、思ったより早く問題は解決していくのではないかと思う」


行政の思考はバラバラ


 最後に、キャスターの土井香苗さんが「行政の中には、森と川と海がつながっているという考えは根づいていないの?」と質問しました。畠山さんはこう答えました。
     「学問の世界はバラバラになっている。そういう学問をうけた人が行政マンになっている。だから、行政の思考もバラバラである」

◇           ◇

 以上です。
 海の水質浄化にカキの浄化能力を活用する。そして、海だけに目を向けるのではなく、森を育て、川の水をきれいにすることもいっしょに進める──。とてもすぐれたとりくみであり、すばらしい提案だと思います。

(2010年8月)





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