人工干潟造成検討の中止を要請
〜三番瀬を守る連絡会が県交渉〜
三番瀬は「再生」という名の人工改変の危機にさらされています。千葉県が「三番瀬再生」や「干潟的環境形成」のうたい文句で三番瀬の干潟や浅瀬をつぶし、人工干潟をつくろうとしているからです。
「干潟的環境形成検討事業」の中間報告を提示
県は今年度(2014年度)、「干潟的環境形成検討事業」を実施中です。市川市塩浜2丁目の護岸前において、100m×50mの規模の人工干潟を机上で検討するとしています。その中間報告を(2014年)9月18日の三番瀬専門家会議で提示しました。人工干潟の比較案としてA案、B案、C案を具体的に示しました。
B案は、人工干潟を矢板で囲む。矢板は満潮時にも水没しない高さとするが、なんらかの形で海水の出入りできるようにする。
C案は、半円形の堰堤で人工干潟を囲む。堰堤は陸側に開く形とし、満潮時にも水没しない高さとする。人工干潟には橋で渡れるようにする。
──というものです。
突堤、潜堤、矢板、堰堤などの構造物設置は砂の流出対策です。県は、そんな人工干潟を市川市塩浜2、3丁目の前面海域(猫実川河口域)で大規模につくることをめざしています。それが実現すれば三番瀬の自然環境は大打撃をうけます。
そこで、千葉の干潟を守る会、三番瀬を守る会、三番瀬を守る署名ネットワーク、千葉県自然保護連合など9団体で構成する「三番瀬を守る連絡会」は10月3日に県と交渉し、人工干潟造成検討の中止を要請しました。
あいまい回答に終始
交渉参加者は31人です。県議会議員の勉強会も兼ねたため、4人の県議も同席してくれました。矢崎堅太郎議員(民主党)、丸山慎一議員(共産党)、岡田幸子議員(同)、ふじしろ政夫議員(市民ネット・社民・無所属)です。県側の出席者は入江信明三番瀬担当課長など3人です。
はじめに、事前に提出した17項目の質問事項について入江三番瀬担当課長が回答しました。回答は文書でも提示しました。そのあと、回答内容をめぐってやりとりです。
県の回答は、例によって“ああ言えばこう言う”式です。私たちは、三番瀬海域で人工干潟を造成することの問題点や理不尽さを、根拠をあげながら具体的に指摘しました。全国の失敗例も示しました。また、「市川市塩浜1丁目地先につくられている人工干潟(養貝場)を検証すべき」と指摘しました。
しかし、担当課長はきちんと答えることができません。「人工干潟をつくると決めたわけではない」「人為的に干潟をつくることが有用なのかどうかを机上で検討する」「われわれは、人工干潟をつくれば三番瀬の環境がよくなるという考えでやっている」などと、あいまいな回答に終始です。人工干潟をつくれば三番瀬の環境がよくなるという具体的根拠はいっさい示しません。
交渉に参加した佐藤さんは、「相変わらずロボットのような答弁だった。コンクリートや土砂投入にお金を投じて“後は野となれ山となれ”とする体質がしみついている」と感想を述べました。
自然は人間の思いどおりにならない
そういう県の姿勢に対して参加者から批判が相次ぎました。17人が発言しました。
大規模な人工干潟を造成するさいは、富津市の鬼泪山(きなだやま)国有林の山砂を用いることも危惧されます。そこで「鬼泪山の国有林を守る市民の会」のメンバーも9人参加し、こう訴えました。
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「三番瀬で人工干潟をつくっても、成功するかどうかわからない。むしろ三番瀬の環境を悪化させる可能性が高い。そういうものになぜ、わざわざ富津や君津の山を崩し、国有林を削って山砂を投入しようとするのか。三番瀬の再生は三番瀬の中でおこなうべきだ。よそから砂をもってきて、砂の供給元をメチャクチャにするばかりか、三番瀬もどうなるかわからないという。そんなことはやめていただきたい。鬼泪山国有林の山砂は使わせない」
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「自然を相手に何かをつくるさいは、必ずミスがともなう。ひとつの例は三陸海岸につくられた巨大堤防である。それができたために、『これで安心』と思った住民が大勢いた。大津波がきても避難しなかった。ところが巨大堤防が壊れたために大勢の人たちが犠牲になった。私たち土木技術者はそれを反省しなければならないと思っている」
「いちばん大事なのは、三番瀬の環境を悪化させた責任はだれが負うべきなのか、ということだ。それは千葉県だ。私も県の土木技術者として浦安から富津までの埋め立てにかかわった。残念ながら、環境破壊の仕事を手伝った。いまはそれを反省している。県は、その場しのぎでいろいろなことを小出しにする。それも、失敗が目に見えているようなことを、である。そんなことはもうやめるべきだ」
「三番瀬はラムサール条約登録をめざすという方向が示されている。それをきちんとふまえてほしい。われわれからみれば、千葉県はラムサール条約登録に後ろ向きという印象しかもてない。県は50年、100年、その先を見越してしっかりとした方針を示し、みんなを安心させてほしい。漁業協同組合がどうとか、市川市や船橋市がどうとか、そういうことではなく、千葉県がしっかりした方針を示してほしい」
「いまほど、環境問題をめぐり、県当局に対して『しっかりしてくれ』『なんとかしてくれ』とつきつけられている時代はないと感じている。多くの県民がみなさんに期待している。そのような県民の思いを真剣に受けとめてほしい」
人工干潟はやめてラムサール条約登録を
交渉に同席したふじしろ政夫議員は、さっそく10月7日の県議会環境生活警察常任委員会でこの問題をとりあげてくれました。
ふじしろ議員は、
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「人工干潟の成功例はない」
「人工干潟はいまある海(三番瀬)を埋めてつくるのではなく、すでに埋め立てたところを削ってつくればいい。そういう話が出ている中でわざわざ埋めることは将来に大きな禍根を残す」
「千葉県のよさとして三番瀬をラムサール条約に登録し、いまある干潟を完全に守っていくことが必要」
人工干潟造成検討の中止を県に要請=10月3日
以下は、事前に提出した17項目の質問事項と県の文書回答です。
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※質問事項の詳細はこちらを参照
質問事項と県の回答 |
【問1】干潟的環境形成検討事業では全国各地の人工干潟造成の実例や教訓も検討すると思われたが、そうなっていないようにみえる。人工海浜「幕張の浜」や市川市塩浜1丁目地先の人工干潟の失敗例も検討されていないようだ。その理由はなにか。
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〔回答〕今回の事業では、規模や目的が近い「横浜港湾の潮彩(しおさい)の渚」などを中心に、環境共生護岸も含めて検討しています。幕張の浜などは規模や用途が異なるため、直接的には検討しておりませんが、砂泥の流出などについては、近隣の稲毛の浜なども参考としています。
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〔回答〕検討事業では、新たに創出される場に定着が見込まれる生物種や生物量により、水質浄化機能を推定することとしています。
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〔回答〕「湿地復元の原則とガイドライン」も検討の参考にしていきたいと考えています。
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〔回答〕検討に当たっては、山砂を用いた場合や浚渫土を用いた場合など、さまざまな状況について検討することを考えています。
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〔回答〕利用者の安全の確保は重要事項であり、安全性の項目で検討し、評価していくこととしています。
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〔回答〕検討に当たっては、現在の環境の保全に配慮しながら、干潟の再生に係る技術的課題などを整理したいと考えています。
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〔回答〕現在、干潟的環境の形成実現の可能性や実施方法などについて検討を行っているところです。
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〔回答〕同事業では、専門家の助言や評価をいただきながら検討を行っています。
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〔回答〕横浜港湾の潮彩の渚、大阪湾の友海ビーチなどでは、地盤が安定し生物の種類や数量も増加していることから参考にしています。
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〔回答〕砂の流出、事業費の問題、生物の定着性など、懸念される事項については、十分に検討します。
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〔回答〕河川流域の都市化が進み、河川からの土砂供給の回復による干潟の再生は、現実的には困難と考えています。
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〔回答〕平成18年度に策定された千葉県三番瀬再生計画に基づき、干潟的環境形成の検討を行っています。
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〔回答〕1丁目地先の当該場所は、市川市行徳・南行徳両漁協が管理しているものです。
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〔回答〕三番瀬再生計画では、干潟が減少し、浅海域化したことが三番瀬の自然環境が単調化した原因の一つとしています。三番瀬は現在も多様な自然環境を有する干潟・浅海域ですが、浅海域部分に干潟的環境を形成することにより、一層の多様化が図れるかどうか検討しています。
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〔回答〕事業化の有無については、現在実施している検討事業の結果を踏まえつつ、市川市と協議していきます。
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〔回答〕干潟的環境の形成により、海と陸との自然の連続的なつながりを回復させ、環境の多様化を進めるとともに、人が海と親しめる場所や機会を確保することを目的として、検討しています。
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〔回答〕ご指摘の要請書は世界自然保護基金日本委員会から市川市長あてに提出されたものであり、詳細は把握していませんが、猫実川河口域の埋め立てを行わないことを要請したものと理解しています。
★関連ページ
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