★三番瀬を未来に残そう


三番瀬をラムサール登録地に

牛野くみ子



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千葉市側からみた三番瀬の全体。藤森泰さんが撮影






 諫早湾の潮受け堤防が閉め切られて1年が過ぎました。293枚の鋼板が次々と落とされて行く様はショッキングでした。生きものの呻(うめ)き声を聞いた思いで忘れることができません。そんな思いの人が全国にいて、「干潟を守れ」の大合唱が起こったのは、当然でしょう。
 しかし、今春にはいって、名古屋市は伊勢湾の藤前干潟をゴミで埋め立てることを決定しました。また千葉県にある三番瀬と呼ばれる海域は、現在、埋立計画を県環境会議で審議中ですが、とても危険な状況です。貴重な干潟が一つひとつと消されて行くなんて、干潟というものをどう考えているのでしょう。


●三番瀬は“生きもののふるさと”

 千葉県の市川市と船橋市地先に三番瀬と呼ばれる干潟があります。その昔、家康の時代は、江戸城内の台所を賄う御菜浦(おさいうら)として知られたところです。東西4キロメートル、南北3キロメートル(1200ヘクタール)に広がる浅場で、ここでは今なお漁がされていて、イワシ、スズキ、キス等を都市周辺に供給しています。底部は砂地で貝類が多く、イシガレイは東京湾のここだけが産卵場です。潮がひけばアサリ、バカガイをとったり、カニやトビハゼを追ったりと、干潟の生物を観察できる自然教育園の場でもあるのです。
 浅場は陽の光がよく入るので、酸素が豊富。だから、生きものが沢山いるのです。カニやゴカイが空けた無数の穴には酸素が供給されるので、水質の浄化作用も盛んです。そして、そんな小さな生きものを求めて水鳥もたくさん来ます。




●三番瀬は海外からのお客でいっぱい

 春、秋はキアシシギ、ハマシギ、オオソリハシシギ、メダイチドリなど沢山の渡り鳥が訪れます。春、オーストラリアやニュージーランドで越冬したシギ・チドリ類は、繁殖のため、カムチャッカやシベリアに向かう途中、三番瀬で餌を採り休息します。いわば、三番瀬は渡り鳥のガソリンスタンド。
 1996年3月、第6回ラムサール締約国会譲がオーストラリアのブリスベーンで開催されたとき、今は亡き石川敏雄先生と二人で三番瀬を知ってもらおうと参加しました。
 オーストラリアの人々は、北緯20度から40度あたりまでを東アジアのホットゾーンとよんで憂慮していました。それは、和白干潟は人工島、諫早湾は干拓、藤前干潟はゴミ埋め立て、三番瀬は港湾や都市基盤整備のために埋め立てと、干潟という干潟がすべて開発にさらされていること。そして、日本の悪化の後を韓国や中国が追っているということなのです。長距離を渡るシギ・チドリ類をオーストラリアでいくら保護しても、日本や韓国、中国が開発でそれらの生息地を奪っているのでは、鳥類の減少を防ぐことができないからです。
 クイーンズランド大学名誉教授の橘川次郎先生から、メダイチドリはオーストラリア−日本間8000キロメートルを一気に飛ぶということをお聞きしました。遠来のお客さんをいつまでもおもてなしできる三番瀬にしておきたいものです。世界中の人が注目している三番瀬は、もはや千葉県の、いや日本だけのものでないのです。
 ちなみに、冬にはスズガモ10万羽以上、ユリカモメ5000羽以上、夏には希少種のコアジサシが渡りの前の8月上旬に8000羽以上も確認されています。




●千葉県の計画

 浄化能力に優れている干潟、そして気候緩和に役立っている海域を千葉県は埋め立ててどうしたいのでしょう。
 県が発行したパンフレット「自然と人との共生を目指して」には、市川二期地区は、県西地域の都市環境の改善を進めるための用地を確保し、さらに新東京国際空港・東京・横浜に至る国際・湾岸軸上の立地条件を生かして、自然と人間とが共生できる資源循環型の「国際性・文化性豊かな環境都市づくり」をめざします、また京葉港二期地区は、国際的な産業・貿易構造の変化や貨物のコンテナ化、船舶の大型化などの輪送方法の変化に対応して、港湾の荷役や総送を効率良く行うための物流機能の充実と、豊かな県民生活を実現するため、自然環境との共生を目指した快適なウォーターフロントの整備を進め、「国際物流と海洋性レクリェーションの拠点形成」をめざします、と書いてあります。
 なお、三番瀬埋め立ては、1960年代後半に、京葉港(1期は1975年に完了)、市川(1期1974年に完了)とも計画策定されたが、オイルショックのため、ともに1期後は、中止になっていました。その後、1985年2月に京葉港2期(270ヘクタール)、市川2期計画(470ヘクタール)の再開が発表され、1992年1月、京葉港2期計画が地方港湾審議会で了承されました。  県は同年6月、大規模開発を環境面から検討する「県環境会議」を設立し、また生態系を調べる補足調査委員会を発足させました。




●私たちの考え

 京葉港2期地区の半分は港湾関連用地ですが、横浜港、川崎港、東京港と、ただでさえ狭くされた東京湾にこれ以上の港は不要です。海上交通の過密化による事故は後を絶たず、昨夏、ダイアモンド・グレース号の原油流出事故は記憶に新しいところです。それに、港湾関係者の話によれば、港を造っても荷が入ってこないというのが現状で、何千億という金をつぎ込んで釣り堀になっている例もあります。
 市川2期地区の流域下水道は、関宿、野田、流山、松戸、市川、浦安、船橋(一部)の汚水を集めて2つの処理場で高度処理した後、東京湾に放流するというもの。莫大な事業費と長年月を要します。これは下水道料金にはねかえります。そのうえ、中小の河川に水が入らなくなるので、地域から水がなくなります。
 合併浄化槽も集中浄化槽も、立派な下水道です。私たちはこれを推奨します。また資源循環型社会をめざすと謳うなら、燃やす、埋め立てるという発想から脱却すべきで、廃棄物最終処分場も不要です。(リサイクルできないものは製造しないが原則ですが)
 自然の良好な干潟があるのに、なぜ埋め立てて人工海浜を造る必要があるのでしょうか。初めに埋め立てありきなのです。私たち署名ネットワークは、埋め立てる必要性がないことから、県に計画撤回を求める署名を1996年3月から進めており、1998年4月14日(干潟を守る日)に12万名分の署名を提出しました。
 三番瀬とわずか2キロメートルしか離れていないところに、日本で唯一、干潟がラムサール条約に登録された谷津干潟があります。谷津干潟は、埋め立てで四方を囲まれ2本の水路で東京湾と連結されています。現在は三番瀬のきれいな海水が流入していますが、埋め立てられたら、港の溜まり水が入ってきて、悪影響を及ぼします。三番瀬もラムサール条約に登録すべきです。三番瀬と谷津干潟とを鳥が往来しているのですから。
 県は埋め立てても半分以上残るといいますが、それは水深5メートルまでで1600ヘクタールと計算しているわけで、1メートル以浅は1200ヘクタールなので、貴重な干潟を3分の2も埋め立てるのは許されません。ここに県のトリックがあります。研究者によれば、底生生物の種類や数量は1メートル前後が最高で、5メートルでは劣るといわれています。
 それに、「県環境会議」自体も、議事録が非公開です。公開して、市民をまじえて見直しすべきです。




●結びにかえて

 春の潮干狩り、秋のハゼ釣り、四季を通じてのサーフィン、浜辺でのバーベキュー、散策と、レクリェーションの場であり、今なお漁が行われ、鳥類にとっての中継地である三番瀬。これこそ、ラムサール条約がうたうワイズユース(賢明な利用)です。
 昔も今も、東京湾は私たちにさまざまな恩恵をもたらしてくれています。次世代もこの恩恵をうけられるように、保全しなければなりません。

(1998年6月)  



コサギ
コサギ



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