外環道の二の舞を防ぐ
─ 第二湾岸道路建設をあきらめない国交省と千葉県 ─
三番瀬を守る連絡会 中山敏則
第二東京湾岸道路は東京都大田区と市原市を結ぶ構想だ。三番瀬を通ることになっている。三番瀬保全団体は第二湾岸道路の建設を28年間も食い止めている。だが、国交省と千葉県は建設をあきらめない。
国交省は2019年3月、千葉県湾岸地区道路検討会を設置した。第二湾岸道路構想の具体化が目的である。検討会は2020年5月、新たな自動車専用道路(高速道路)建設計画の基本方針をまとめた。ルートは外環道高谷JCT(市川市)−蘇我IC−市原ICだ。三番瀬は通らない見込みとなった。三番瀬保護運動や世論の力によるものである。
しかし、国交省と千葉県は第二湾岸道路の建設を断念しない。県は、高谷JCT周辺より西側、つまり三番瀬を通る第二湾岸道路の建設も国に要望している。
第二湾岸道路は今も県政の重要課題
三番瀬を通る第二東京湾岸道路は、依然として千葉県政の重要課題になっている。新聞もこう報じている。
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〈県内湾岸部で、建設計画が18年ぶりに再燃しているのが「第二東京湾岸道路」だ。(略)森田健作知事が2019年1月、再び建設に道筋をつけたが、三番瀬問題は依然、解決をみない。今後、どう進めていくのか。計画の行方は新しい知事に引き継がれる。〉(『朝日新聞』千葉版、2021年3月13日)
〈森田知事は2月4日、退任前最後の県議会で答弁に立ち、3期12年を振り返った。道路網整備の実績とともに、検討中の第二東京湾岸道路(第二湾岸)を挙げ、「県の10年、20年後を見据え、欠かせない」と強調した。(略)森田知事は3期日の大きな取り組みとして、構想を再び前進させた。2019年1月、国土交通省に石井啓一国交相(当時)を訪ね、「整備に向けた検討を国主体で始める」との回答を引き出した。ただ、三番瀬など周辺の環境に配慮しながら進める必要があり、具体的なルートなどは未定のままだ。〉(『読売新聞』千葉版、2021年3月17日)
〈第二湾岸道路を整備する必要がある。構想は一時停止していたから、私は道筋をつけようと、2、3年前から当時の菅義偉官房長官と相談して道筋をつけた。後は次の知事にうまくやってもらいたい。〉(『毎日新聞』千葉版、2021年3月28日。「〔森田健作知事インタビュー〕人、物の流通 命かけ12年」)
外環道工事が急に進んだ理由
三番瀬を通る第二湾岸道路を食い止めるうえでは、外環道(東京外かく環状道路)の二の舞を防ぐことが大事だ。
外環道の県内区間(松戸−市川間)はかつて、工事が10年以上ストップしていた。土地を売らないでがんばった人たちがたくさんいたからだ。そのため、外環反対連絡会の中心メンバーは「外環道はできない」と宣言していた。ところが、である。堂本暁子知事が県収用委員会を再開させたら状況が一変する。それまで反対していた地権者たちが次々と用地買収に応じたのである。みるみるうちに用地買収や工事が進んだ。そして2018年6月2日に開通した。
2001年4月に県知事に就任した堂本暁子氏の最大の目的は権力(知事)の座に居座りつづけることだった。ルポライターの永尾俊彦さんは堂本知事の言動を取材しつづけた。永尾さんはこう書いた。「堂本知事の就任以来の行ないは、権力の座にいること自体が目的になっているように見える」(永尾俊彦「巨大開発に熱心な『市民派』を警戒せよ」『週刊金曜日』2003年4月4日号)。ズバリの指摘である。
堂本知事は2005年春の知事選で再選をめざす。そのための切り札として打ちだしたのが、外環道などの工事を進展させることだった。堂本知事は2004年12月、県収用委員会を「秘密会」で再開させた。収用委は、成田空港の工事にからんで委員不在がつづいていた。それを16年ぶりに再開させたのである。再開によって道路建設などで強制収用ができるようになった。
2004年12月26日の『千葉日報』は収用委員会再開をこう報じた。
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〈知事選を前に「選挙対策だ」と言う自民党県議も。三番瀬問題や住宅公社問題などで苦境に立っていた堂本知事にとって「収用委再建は究極のソフト事業」(県政ウオッチャー)というわけだ。国土交通省幹部も早くから「収用委再開が再選出馬の試金石になる」とみていた。〉
収用委員会の再開によって外環道の用地買収が急テンポで進んだ。事業者は、用地買収に反対していた地権者たちを各個撃破で説得する。「県収用委員会が再開されたので強制収用が可能になった。強制収用で支払われる補償金は、任意の交渉に応じた場合の補償金より少なくなる」などと脅かしながらである。用地交渉は秘密裡で進められた。そのため、用地買収が進んでいることを外環反対連絡会は把握できなかったという。
「知事の座にいること自体が目的」という点では、熊谷俊人知事も堂本暁子元知事や森田健作前知事と変わりはないと思われる。すでにその兆候が現れている。今年(2021年)4月13日、福島第一原発で発生した放射能汚染水の海洋放出を菅内閣が決定した。すると、熊谷知事は直ちにこの決定に理解を示した(『読売新聞』千葉版、4月14日)。放射能汚染水が海洋放出されれば千葉県の漁業も深刻な被害を受けるのに、である。
4年後の再選をめざすため、熊谷知事は第二湾岸道路建設の秘策を打ちだす危険性がある。三番瀬保全団体は外環道の教訓をふまえ、三番瀬を通る第二湾岸道路の建設をなんとしてでも食い止めたい。
浦安市の埋め立て地に確保された8車線の第二湾岸道路用地。三番瀬の猫実川河口域で
行き止まりになっている。2車線が一般道路として使われている
千葉市美浜区の幕張メッセと千葉マリンスタジアムの間に確保された8車線の第二湾岸道路用地。
そのうち4車線(右側)が道路として使われている。この第二湾岸道路用地も三番瀬で行き止まり
になっている=アパホテルから撮影
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