三番瀬が危ない!

〜猫実川河口域の人工海浜化をめざす動き〜

中山敏則

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■知事発言の意味

 森田知事は(2009年)6月4日の定例記者会見で、三番瀬問題について「自然と人間は共生していかなければならない」と述べました。
 この言葉にだまされてはいけません。森田知事がいう「自然と人間の共生」は、貴重な自然を保存するとか、生物多様性を保全するということではありません。
 その逆です。自然はそのままほっておくべきではない。人間の都合のいいように利用すべきである──ということなのです。もっとはっきり言うと、「自然は金儲けのために利用すべきである」ということです。


■「自然と人間の共生」のウラに再開発計画
   〜三番瀬の人工ビーチ化が目的〜

 市川市長などは5月28日、知事と面会し、三番瀬の猫実川河口域(市川側海域)に土砂を入れて「人工干潟」(中身は人工海浜)をつくってほしいと要望しました。知事の発言はこれを受けてのものです。
 市川市長の要望は、三番瀬再生会議の議論を打ち切り、「三番瀬再生」(人工海浜の造成)を早くやってほしいというものです。市の人工海浜化構想のキャッチフレーズは「自然と人間の共生」です。
 市川市は、地権者や産業界といっしょになり、猫実川河口域に面する塩浜地区の再開発計画を進めています。いまは工業専用地域などとなっている市川塩浜2丁目を、マンションやホテル、レジャー施設、商業施設などが林立する街に変貌させたいというのが願望です。市は大型ホテルの誘致も力を入れています。
 そのためには、そこに面する猫実川河口域(三番瀬の一部)を人工海浜にし、「海の公園」(横浜市)や「葛西臨海公園」のようなものにしたい。そうすれば、人工ビーチを擁した街ということで、再開発が成就する。土地も、マンション業者やホテル業者などに高く売れる──というわけです。
 さらに、そのすぐそばにある行徳鳥獣保護区(行徳近郊緑地)を新宿御苑のようなものにつくりかえることも主張しています。そうすれば、行徳地区に大勢の人がやってくるようになり、産業界が潤って地域活性化につながる、というわけです。(市川市長の要望書には、行徳鳥獣保護区の県から市への移管も盛り込まれています)



市川塩浜地区再開発のイメージ図



市川市の人工海浜化構想





■再開発の基調は「Love is money」

 市川市行徳臨海部まちづくりのコンセプト(基調)は「Love is money」です。「採算性のあるまちづくり」とのことですが、直訳すると「カネが大好き」あるいは「儲けが第一」です。
 2003年7月25日開催の第10回「市川市行徳臨海部まちづくり懇談会」で、市川市塩浜協議会まちづくり委員会の富田伸彦氏は、こう述べています。
    《私の希望としては、(猫実川河口域に砂を入れて)せめて100メートル先ぐらいまで、できれば300メートル先ぐらいまで歩けるようにしたほうがいいのではないかと考えている。市民が親しめる海辺については、船を使わなくても子供たちを連れて海の見学会ができるような感じがよいのではないか。
     それから、野鳥の楽園(行徳近郊緑地。行徳鳥獣保護区など)は、今は人間が入れない状態になっている。周辺にたくさんの人間が住んでいる場所なので、新宿御苑のような、ああいうイメージのようなものにしてもいいのではないか。もっと高い樹を植えて、もっと違う鳥が来てくれるというイメージがあってもいいのではないか。「市川塩浜2丁目まちづくり方針」の基本理念に「愛」と書いてあるが、私はこれは Love is money と呼んでいる。企業側レベルでは当然お金がかかるので、採算性のあるまちづくりが必要だ。皆さんが親しめるというものがある。私のコンセプトは Love is money ということで、よろしくお願いしたい。》(議事録より)


■猫実川河口域が埋まったらゲームオーバー

 猫実川河口域は、多種多様な生き物が生息する重要な浅瀬であり、三番瀬の中で最も生物相が豊かな海域です。大潮の干潮時には広大な泥質干潟が現れます。
 県の生物調査では、動物195種、植物15種が確認されています。そのなかには、県レッドデータブックに掲載されている絶滅危惧種も11種が含まれています。「三番瀬市民調査の会」が2003年から続けている市民調査でも、動物132種、植物16種を確認しています。また、この海域には約5000m2の天然カキ礁も存在します。カキ礁は、水質浄化機能が高いだけではなく、魚礁としての機能も高く、海外においてはその価値が高く評価されています。
 まさに、ここは三番瀬の中でもっとも生物の多い海域であり、東京湾漁業にとって“いのちのゆりかご”となっているのです。これは、1996年から3年間、6億円をかけて実施された県の補足調査でも明らかにされています。
 そんな大事な浅海域をつぶすことは、一連の三番瀬の干潟・浅瀬の生態系及び物質循環を分断することであり、多様な環境と生物、漁業などが微妙なバランスを保ちながら関係しあい成り立っている三番瀬全域の生態系に重大な影響をおよぼします。
 この点は、たとえば大野一敏・船橋市漁協組合長も、「海にいろいろな生き物がいないと漁業は成り立たない。あそこが埋まったら、ゲームオーバーだ」(『サンデー毎日』2005年7月24日号)と述べています。
 ところが、市川市長や産業界などの考えは、“そんなのクソ食らえ!”です。生物相がどんなに豊かでも、再開発や金儲けに役立たなければ無意味だ、というわけです。
 

■「浅い海を埋め立てれば、どれほどもうかるかわからん」

 話はさかのぼりますが、52年前の1957年のことです。市原市五井の前面に広がる遠浅の海をみて、三井不動産の江戸英雄社長(当時)はこう語りました。

 「もったいない。この浅い海を埋め立てて工場用地にすれば、どれほどもうかるかわからん」

 これは有名な話であり、小学生向けの歴史書(『おはなし日本歴史 第24巻 世界のなかの日本』岩崎書店)にも載っています。
 江戸英雄氏と友納千葉県知事(当時)の“二人三脚”により、千葉の東京湾岸の干潟はかたっぱしから埋め立てられました。三井不動産は千葉の埋め立てでボロ儲けし、日本一の不動産会社にのしあがりました。
 市川市長や産業界などが三番瀬を見る目も、江戸氏とまったく同じです。「三番瀬をこのままにしておくのはもったいない!」ということです。
 そもそも、三番瀬の埋め立てを推進してきた市川市は、三番瀬の自然環境を悪化させた張本人です。その後も、三番瀬の保全に役立つことは何一つやっていません。そんな張本人が、なんの反省もなく「三番瀬の再生」とか「自然と人間の共生」などと言い、貴重な三番瀬を人工ビーチにしようとしているのです。何をかいわんや、です。


■県のネライは第二湾岸道路

 県も、猫実川河口域に第二東京湾岸道路を通したいため、「三番瀬再生」という名で人工干潟化をめざしています。堂本前知事は、それを市民参加方式で実現しようしていました。しかし、市民参加方式では時間がかかりすぎるので、そうした「従来の手法」にとらわれることなく、早期に実現に具体化してほしいというのが今回の市川市長の要望です。
 県が三番瀬のラムサール登録に消極的なのは、第二湾岸道路を通したいからです。
 しかし、三番瀬は奇跡的に残された貴重な干潟・浅瀬です。そんな大切な三番瀬を、一部の人たちの金儲け(再開発)や不要不急の有料高速道路のためにつぶすことは絶対に許せません。

(2009年5月)






猫実川河口域は、大潮の干潮時に広大な泥干潟が現れる。




アメフラシ。猫実川河口域は生物の宝庫でもある




約5000平方メートルの天然のカキ礁も存在する。





カキ殻の中にびっしり産みつけられたチチブ(と思われる)の卵。
もう少しで孵(かえ)るところだと思われる。





イダテンギンポがカキ殻のなかに無数の卵を産みつけ、それを守っている。





イシガレイの赤ちゃん。
春先に、泥干潟の小さな潮だまりなどでたくさんみることができる





メリベウミウシ





アミの仲間。魚にとっては絶好のエサとなっている





ユビナガスジエビ











猫実川河口域はハゼ釣りやカニ釣りのメッカでもある




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